はるな

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのはるなのレビュー・感想・評価

5.0
ディカプリオの演技が凄まじい。彼の演じるアーネストのような無知で浅薄な、上の立場の人間からすると御しやすく結果的に社会的虐殺のシステムにピッタリと嵌まることになる朴念仁の説得力が半端ない。そんな何処にでも遍在する愚かで“凡庸な”人間が直接的加害者となった民族虐殺はおぞましく、映画観客の超越的視点を持ってしてもこの映画だけで何かが分かったかのように錯覚することは出来ないし「何も分からない」と傍観もさせない。結局のところアーネストも諸悪の根元たる叔父のビルも事件後すぐに釈放されるし、この事件も“悲劇の一つ”として片付けられ、あまつさえその後の一般社会で物語は無自覚に消費されていく(いる)。スコセッシの立ち位置はフラットで、ディカプリオが各所インタビュー等で話すように「誠実」だった。オセージ族のキャラクターを話の中心に据えなかったのはそのためで、ラストで自らがあの役を買って出たのも物語表象の功罪に自覚的だったからだと思う。嵐のように過ぎ去る上映時間は善良(凡庸)な一般市民の目を悲劇の一つに一瞬だけでも向けさせるには短すぎる程。静かに目を凝らし、耳を傾ける3時間26分、エンドクレジット後に雷鳴が轟いて映画は終わる。
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