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ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒のsomaddesignのレビュー・感想・評価

5.0
大コケした理由がわからない
ライカ史上屈指の傑作なのに

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ヴィクトリア朝のイギリス、未確認生物の発見に執念を燃やす探検家のライオネル卿。伝説の生物を探し求めてアメリカへと旅立った彼は、人類の遠い祖先だという生きた化石「ミッシング・リンク」と出合う。種族で唯一の生き残りだというミッシング・リンクの親族を探すため、伝説のシャングリラを目指すことになるが……。
「KUBO」や「コララインとボタンの魔女」などで知られるアメーションスタジオのライカが手がけたストップモーションアニメ。

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宣伝が目に入ってなかったのか、ライカ最新作なのに完全ノーチェックで危うく見逃すトコだった! ライカ作品はとにかく見ねば!

アメリカでは1億ドル以上の赤字を残す大コケしてしまったそうだけど、正直理由がわからない。よほど公開規模が小さかったのか、同時期にビッグタイトルに囲まれて埋没しちゃったのか…… 大コケしたからって駄作ではないし、少なくとも映画館で見る価値は十二分にあった。(日本の映画宣伝「全米大ヒット」多すぎ問題も)

95分間、駆け抜けるようなハイテンション・ハイスピードなストーリーとザック・ガリフィアナキス(絶対名前を覚えられないので、自分の中ではいつまでも「ハングオーバー!のアイツ」)のゆるい笑いが矢継ぎ早。

旧来の価値観から脱皮する話でもあって、主人公と対になるヴィランダンスビー卿の言い草がイチイチどうかしてる(19世紀末が舞台で、男尊女卑かつ権威主義だった時代背景だったとしても)。主人公自身、ダンスビー卿に対抗するキャラでありながら、彼の夢見る先にあるのはダンスビー卿と同等の(もしくわ成り代わって)権威を得たいだけっていう自己顕示欲ばっかし。「自分のことしか考えないから孤立してるのに、それが不当だと思ってるでしょ」ってツッコミの鋭いのなんの。自分が言われてるみたいで心にグサグサ刺さっちゃう。
そこで自己中な男が初めて自省するシーンで、たくさんの自分に見つめ返されるシーンが秀逸。

ことほど左様に、シンプルなストーリーに散りばめられた暗喩、画面の隅々まで考え抜かれ、作り込まれた物語が見事。てんでバラバラだった3人が視覚的にも繋がるクライマックスが見事で、自滅したヴィラン達と対になるようにリンクすることで自らを救うし、来た道を違う意味を持って帰っていける。
誰かの瞳に映り込む自分や、鏡に映る自分。いい歳して、自分の中以外にも世界が広がっていることをやっとこ自覚。違う世界と結ばれたり、交差したり道を違えたり……形はどうあれ互いの違いを認め合って繋がることで次の世界が見える話。そのためにはどうしたって自分自身アップデートしていかないとって事でもあるのか。


少年少女の暗い生い立ちを描いたダーク・ファンタジー色の強いライカにあって、インディジョーンズみたいな根明な冒険活劇。エンタメ色強いけど、大人になりきれない/大人ってなんじゃい?と自問を秘めた意欲作だと思う。

64本目
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