夜行列車に乗ったカリート

ザ・ライダーの夜行列車に乗ったカリートのレビュー・感想・評価

ザ・ライダー(2017年製作の映画)
4.6
クロエ・ジャオ監督作。
障害を負ったカウボーイはどう生きればいいのかを問う、再生の物語。

アメリカ西部、スー族のカウボーイとして生きる主人公ブレイディは、ロデオの落馬で頭部に重症を負う。後遺症に苦しみ、アイデンティティを失った彼は、それでも生きる術を探していく…。

これはかなり面白かったです。
ジャオ監督の手腕は見事と言うしかない。

主演を演じたブレイディは役者ではなく、実際に西部で生きるスー族のカウボーイ本人。本名はブレイディで、役名も同じ。
さらに落馬で怪我を負い、カウボーイとしての生を絶たれた経験を持つ。
出演する彼の家族も、実際の本人達が演じている。

作品全体で映画的な演出が抑えられており、演者の生活をそのまま描くことによって迫真性のある深い表現に繋がっている。
本作は、現地の自然な風景を切り取った作品として、我々の目に映る。
映画ではあるけれど、極めてドキュメントな物語。

スー族の生活は、嫌なら都会に移り住めばいいという日本の田舎町とは違う。貧困や教育制度の無さから、その地域で生き続けなければならないという背景を持つ。
障害を負ったブレイディに対し仲間や地元の人たちは言う…「また馬に乗れよ」と。
もちろんそれはブレイディも望むこと。馬と共に生き、ウサギを狩り、ロデオに興じる。
妹や父は「もう乗るな」とブレイディを案じるが、落馬で重度の後遺症を負った兄貴分レインは「夢を諦めるな」と背中を押す。

このことは単なる田舎の同調圧力とは違う。死を覚悟して自分の望む姿になるのか、無難な道を選んで生き長らえるのか。
どちらの言うことも正しいし、だからこそ苦悩する若者の姿が描かれる。
本作には、西部の土地で生きる・生かされているという生者の表現がある。

西部に生きている。
馬と共にある幸福も、障害を負った現実も、そこに是非は無くただただ真実が横たわる。
決して哀しいストーリーではなく、強く前を向いて歩いていこうとする、生きる者の物語。

ブレイディは結果として選択をしましたが、どちらを選んでいたとしても、きっと彼らしく生きていけるんだと思いますね。

Good luck,part'.
you,too,cowboy.

ここには彼らの生がある。