このレビューはネタバレを含みます
序盤はこれぞ昭和の邦画といった感じのセリフ回しに演技、カメラワーク、暗めなライティング。
最近の映画に慣れてる人は1分で辟易としてしまうかもしれない。
しかし、地味に上手いのが、動機づけや人間関係の構築。
各キャラクターを描写しつつ、行動原理、この情報を知っている知っていないなどがリアリティがあって自然だ。
それで話が転がっていくという脚本の基本はしっかりしている。
轢かれて死んだヤクザの家族が主人公を追うという設定や、
完全なる悪役の田村の存在が、
退屈になりがちなところに緊張感を与えている。
田村の解釈はいろいろあるだろうが、
「魔が差す」のまさに"魔"を擬人化したような存在。
その描写から現実の存在かどうか議論されるところだと思うが、
しかし、自分が過去に出会った現実の人間を思い起こせばこういうタイプの人間に一人は出会ってるはず。
他人に危害を加え不幸にするのを最上の喜びにしている人間。
そういう不条理さをも描くことで、
地獄と同時に現世をも描写しているように感じる。
映画としての完成度の評価はどうしても低くなるが、見るべきところはある。
あと田舎に行ってからの線路のシーンあたりの画面の構図が美しくて好きだ。