垂直落下式サミング

エボリューションの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

エボリューション(2001年製作の映画)
5.0
金曜ロードショー世代の思い出。消防車に乗ってお祭り男がやってくる。アイヴァン・ライトマン監督キャリア中期の地味な作品ではあるけれど、日本においては何回もテレビ放映されていることもあって、潜在的な人気の高い作品である。
ストーリーは、エイリアンインベージョン。お国の役人は頼りにならないから、そこらへんのバカの頑張りが世界を救うパニック映画の王道展開。役人たちの宇宙生物への対処がいちいち悪手だったことで、一般人を危機に陥れてしまう。『E.T.』でも星条旗を倫理的悪の象徴としていたけれど、本作ではさらに露骨。アメリカ人は国旗には忠誠を誓うけど、政府のことはあんまり信用していないのがよくわかる。
田舎町で落ちぶれた科学者たちが超常的なものを相手取って頑張るのは、代表作『ゴーストバスターズ』の焼き直しではあるけれど、今度は黒人キャラクターが大活躍するし、消防士志望の若者や、Cマイナス成績の兄弟、正しい行いをするためにキャリアを捨てる女性など、いろんな人物にスポットが当たっているのに優しさを感じた。
エイリアン退治の物語が、とるに足らない小市民たちによる一世一代の自己実現に繋がっていくのが、エモーショナルでいい感じだ。
急激な速度で成長するエイリアンは、数時間で単細胞生物から多細胞生物へ、驚異のスピードで進化。そのあと洞窟のなかでの生命淘汰を経て、植物、虫、魚類、爬虫類、哺乳類、類人猿などが生まれてくる。それぞれの個体の性質がしっかりと考えられているのが楽しいし、地球の生物が何十億年もかかって進化してきた道のりを、ぐぐんと数ヶ月でイッキに追いついてくるのがなんだかゾクゾクする。
でっかい親玉を一匹倒したら万事解決なお気楽さにも物語上どうしてこうなるか、ちゃんとした理由があるし、特に元素周期表を持ち出してきて科学的な立場から敵の弱点に当たりをつける場面の律儀さに惚れ惚れ。フィクションの物語ではあるけれど、いちいち理にかなっているっぽさを出してくるから感心してしまう。理屈人間の脳に優しい。
舞台は都市伝説の本場アリゾナ州。隕石に乗ってやってきたエイリアンの襲来が市民に伝えられると、みんなヤケクソでどんちゃん騒ぎ。エイリアンの襲撃じゃ、みんな道ずれ共倒れ、ええじゃないか、楽しいねえ。
2001年の公開ってのも、象徴的。ノストラダムス野郎が大ホラ吹きだとわかった後の製作なので、世相を反映してどうにでもなれとアッパー系終末世界の空気が漂っているが、本作が公開された数ヶ月後に、同時多発テロが起こる皮肉なクロニクル。ここから後は、お気楽でいられなくなっていく時代だ。
主要人物はジュリアン・ムーアくらいしか有名なスターが出ていないのに、ちゃんと面白いからすごい。画面の面白さに引っ張られて俳優も何割増しかよくみえる。昔みたときは、リチャード・ギアとエディ・マーフィとジム・キャリーが共演している最強映画だと勘違いしてたけど、当然そんなことはなかった。全員ニアミス顔。エックスファイルさんでしたか。そんな豪華キャストだったらもっと有名作品だよな。
ちょい役で出ている若き日のサラ・シルヴァーマンが、今やいちばん有名までありそう。やっぱ若いころ綺麗だな。神は二物を与えたもう。眉間にシワよったときの顔が1番キュートで好きです。
他にキャストに名前があって驚いたのは、名作『コロンバス』のジョン・チョー。短大生の一人なのか?あーっ!いるいる!
昨今のアメリカンショービジネスのダイバーシティを代表するようなメンツの若いころがみられるが、よくも悪くもギャグセンがちょい古い映画なので、やや人種差別的・女性蔑視的なところは気になった。
主に黒人の扱いかたにハラハラするけど、さすが地質学者な名推理でモンスターの分布と移動経路を説明してくれるし、最後は幾度となく強調されていたケツに特攻する大活躍なので、ゴーストバスターズより進歩していて好きだ。
映像特典も鑑賞。不評だったという別エンディングは、下品なだけなのでマジでカットして正解。他の未公開シーンもみたけど、切ったなりの理由がある感じだ。
本当に面白い映画だと思う。アイヴァン・ライトマン最高傑作はこっちだろ。いろいろと集大成ですよ!