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人間失格 太宰治と3人の女たちのfilesのレビュー・感想・評価

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私は、「太宰治」を、彼の文章を通じてしか知らない。「人間失格」を読んでも、「こんなに饒舌に自分を語れる人は失格者じゃないよ」と思っていた。

しかし、スクリーンの中で動く太宰を見たとき、彼が自称「人間失格」者である理由が初めて分かった。彼は人間でなくて、周囲の人間の強い想いを全てのみこんで動いている何かだった。本人曰く「道化」だが、私は、もっと主体がなくて常に周囲の生き霊に憑依されている「イタコ」に見えた。ちなみに、映画HPでは上野千鶴子さんが「ブラックホール」と表現していた。まさに。

だから、脇役の生命力や想いの強さが際立つ。ほぼ全員だが、特に宮沢りえさんや高良さんが一人で映るシーンは空気がピリッとした。一瞬誰の映画か忘れるもんね。

配役が俳優さんのパブリックイメージそのままなので物足りなさを感じた人もいるかもしれない。誰もがどの役も演じられるくらい実力派だから、シャッフルした方が深みは出たかも。でも、映画の色調の通り、原色を原色のまま描くのもありだ。

もし、私が津島家の近所の人だったなら、太宰治を「時々たわいのない話をきいてくれる、いい人でしたよ」としか表せなかったでしょう。やっぱり彼は文章の中にこそ生きる人だ。
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