松井の天井直撃ホームラン

人間失格 太宰治と3人の女たちの松井の天井直撃ホームランのレビュー・感想・評価

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☆☆☆★★★

苦手な太宰。しかも嫌いな監督…と。
自分の中では、ハズレの要素が満載だったのだが…。

アレ?何だこれ! 少なくとも自分の中では面白い!しっかりと映画になっている。一体全体蜷川実花に何が起こったのだ!

映画は太宰を巡る正妻と。2人の愛人との関係から創作される小説との関連性を、この監督独特の世界観が支配する。

とにかく太宰役の小栗旬が良い。
自分の才能に対する自信と。世間が《単なる不倫小説家》と蔑み、認めて貰えない事への承認欲求の強さ。加えて、希代のクズ男としての顔を巧みに演じていた。

2人の愛人には沢尻エリカと二階堂ふみ。
2人に共通しているのは、共に太宰の才能を高く評価し、太宰の小説の力になりたい…とゆう欲求の強さ。
だが沢尻演じる静子は、太宰以上に承認欲求の強い女であり。広く世に出たいと願う女。
対する二階堂演じる富栄は。自分の存在で太宰の才能を伸ばし、文壇の頂点へと上り詰め。その才能を永遠に残す為に、共に【死】へと向かう事を望む女。

そんな太宰と2人との創作活動を見続けるのは、宮沢りえ演じる正妻の美和子。
太宰の才能に疑う余地の無いのを知るのは愛人の2人と同じ。
だが、決定的に2人と違っていたのは。太宰の才能を引き出す術を知らず。日々の生活に忙殺されている為に。愛人の2人の様な、太宰にとっての《止まり木》になれない辛さを抱えていた。

そしてもう1人。成田凌演じる編集者の佐倉。
太宰の才能に心酔する彼は。或る意味では、小説創作に於ける正妻とも言える。
作品中で彼は、2人の愛人の間を行ったり来たりする太宰へ(何をしてるんですか的な意味を込めて)「たかが不倫小説家じゃないですか!」と言い放つ。
更には、「人間失格を書いて下さい!」…と。

《たかが不倫小説家》

自分の中では更なる高みを目指しているだけに、「このままでは終われない!」の想いが強い太宰。
この時の演出で、この監督らしく。沢山の風車や、多くの子供達を使い。強烈な太鼓のリズムで太宰の心のざわめきを表す演出が、この作品での白眉だった様に思う。

「斜陽」のヒットで遂に文壇の頂点に達した太宰。
しかしそこへ、高良健吾演じる三島由紀夫が。【死】の匂いを漂わせる太宰の作品に対して一石を投じる。

「本当に死ぬ勇気はあるのか?」

続けざまに「醜悪だ!」…と。

この出来事があった事で。太宰の心の奥底に潜む世間への怒りが沸点へと達する。
…のだが、しかし。刻一刻と《その瞬間》が近付いていた。


蜷川実花特有の極彩色溢れる画面構成に、とにかくクズ男の小栗旬。
普通に考えたならば、どう観ても一般受けはしない内容と世界観でしょうね。個人的には大いなる刺激を受けた作品でしたが。或る意味で観る人を選ぶ作品と言えるかと思います。

2019年9月15日 TOHOシネマズ流山おおたかの森/スクリーン6