ナチ独裁下の戦禍で、ナチ教育を植え付けられた少年が主人公。彼の中のナチ側の妄想のヒトラーが実体化して、超自我的に語りかける。その一方で姉と同じ年齢のユダヤ人の少女と関わる中で形成される人間的な部分と、戦況が悪化するにつれそれまでの虚構的なナチ的価値観が揺れ動く。母の部分対象としての靴、ナイフや火器の政治性とダンスの人間性の象徴の対比。父なき家族の父の代理としての母、大人の嘘、靴紐の仕草を通じて大人になる描写など、基本的にはアメリカンな感じでわかりやすくお決まりで読みが誘導される展開だが、タブー視されるナチを娯楽的に、負の記念日として描くにはこれしかないのかもしれない。ドイツが舞台だが、全編ドイツ語ではなく聞き取りやすい英語で展開されるのも示唆的であるとも言うべきか。
