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ジョジョ・ラビットのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

ジョジョ・ラビット(2019年製作の映画)
3.5
【広告的演出がナチスの愚行を皮肉る】
アカデミー賞のシーズンですね。今年の有力候補にして前哨戦にあたるトロント国際映画祭で観客賞を受賞した『ジョジョ・ラビット』を観ました。『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』でも注目され、近年ではMCU作品に出演しているタイカ・ワイティティ新作です。ナチスのホロコーストを扱った作品にもかかわらず、ウェス・アンダーソンタッチの緩さで描かれた本作はその演出こそが大きな皮肉として機能している作品でありました。

第二次世界大戦の映画だというのに、開始早々ビートルズの『I Want To Hold Your Hand』をポップに流しながら映画は幕を開ける。ミニオンズ張りにキッズが立派な兵士になるためワイワイ訓練をしていた。そして主人公ジョジョは空想の友達ヒトラーのアドバイスの元毎日を陽気に過ごしていた。時には、先輩にいびられることもあるが、特に問題なく過ごしていた。そんな彼が、家にユダヤ人少女が匿われていることに気づいてしまう。空想の友達ヒトラーの意見に反して、すっかりその少女のことが気になってしまった少年は悩み始める。そして同時に、今まで鮮やかだった空想世界のような陽気さはドンドン瓦解していき、壮絶な戦況が見え始める。

本作は一見すると、第二次世界大戦時代をナメた作品のように見える。あまりに漫画的で強烈だからだ。しかしながら、そこには今のドナルド・トランプ時代に対する怒りが込められている。ドナルド・トランプは自らをピエロのように仕立て、炎上をひたすら炎上で返すことで常に世界の中心に立とうとしている。そのド派手さ、コミカルさは、人を惹きつける力があり、今ではアメリカの定番土産に彼のイラストが使われるようになっている。しかし、そのコミカルさは世界で起こっている悲惨さを霞ませてしまう危険さがある。実際に、本作におけるヒトラーはコミカルでカリスマ性のある人物だ。しかし、そこにある言葉には毒があります。

毒された世界に心まで毒された少年が、それを克己する。そこにタイカ・ワイティティ独自の平和のメッセージが見えました。ちょっとポップすぎるので作品賞はキツイのかなーと思いつつも応援したい一本でした。
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