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ジョジョ・ラビットのayのネタバレレビュー・内容・結末

ジョジョ・ラビット(2019年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

冒頭、鏡に映った少年の正面ショットがあるんだけど、あそこでどう考えてもカメラが映らないのはおかしい。つまりCGかなんらかのトリックを使っていることは明らかなわけで、この時点でこの映画を信じようと言う気がどんどん削がれていく。そして案の定官僚的な切り返しとこれ見よがしなスローモーションが続いていくわけで、これでは目を閉じていても同じじゃないかと寂しい気持ちになった。(しかし目を閉じてしまうと、戦時中ドイツの話なのになんでみんな英語なんだと言う根本的な疑問に目を向けざるを得なくなるけど)

ただ、この映画にも面白い画面があって、そこでは少年の顔とスカーレット・ヨハンソンの断片化された足が映っている。そしてオフの空間からスカーレット・ヨハンソンの声が響く。この画面はプールサイドと川の土手で2度反復される。保守的な画面が続く映画にしてはやけに尖った演出だなと思っていたんだけど、終盤あまりにも劇的で隠喩的な形でこの画面の「伏線」が回収されてしまうのだ。せめてこう言った細部は無償のものであって欲しいのだが…
また、銃声によって処刑をオフの音で処理してしまう件も良いなと思うんだけど、それも映画的な意志によるのではなく、多分倫理的な配慮がそうさせているのだろうなと邪推してしまうのだ。
サブライムな夜景に肩を寄せ合う2人と言う構図は『ファイトクラブ』のラストを彷彿とさせ、意外にも派手な戦闘シーンは『プライベート・ライアン』を想起させもするが、それが何だというのだろう。

それにしても他のアカデミー作品賞候補作に対して分が悪すぎる。同じく「家の隠されたスペースに人がいた」映画である『パラサイト』が垂直軸をフル活用して図式性を極めた過激さに比べれば、ただ壁を隔ててお話をするだけのこちらは見劣りするし、スカーレット・ヨハンソンつながりで言えば『マリッジ・ストーリー』の靴ひもを結ぶと言う主題は、こちらのあまりに繰り返されて我々を不感症にさせるそれと比べれば、そのあっさりとした清々しさが光る。歴史的であることを放棄してあえて現代的であることによってアクチュアリティを獲得していることはこの映画の美点だと思うけれど(戦時中ドイツを舞台とする物語のオープニングを、ビートルズの『抱きしめたい』ドイツ語版で彩る馬鹿馬鹿しさ!)、そう言った観点では圧倒的にグレタ版『若草物語』の方が感動的だ。

チェコの美しい街並みに支えられながらも、ウェス・アンダーソンのような過激な形式主義にも浸りきれず、ただ叙情的な成長譚で観客を泣かせることに賭けた、そんな映画に思えた。
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