サラリーマン岡崎

新聞記者のサラリーマン岡崎のレビュー・感想・評価

新聞記者(2019年製作の映画)
4.7
大衆作で重鎮監督しかノミネートされなかった日本アカデミー賞は
10年前くらいからしっかり単館系映画もノミネートされるようになった。
でも、今回もそうだったが、大体1作だけで、
大衆からも軽視されていた日本アカデミー賞の盛り立て役として
ノミネートされている様にも思えた。

そして今回も『翔んで、埼玉』が最多ノミネートということで、
それも話題性を持たせるための策略に思えた(『翔んで、埼玉』はいい作品ではあるが)。
そして、結果、本作が最優秀を受賞し、それはそれで異例のことではあったけど、
それ自体も話題性を持たせるだけとも思ってしまった。
でも、そのお陰で、本作はアンコール上映も始まり、私がいつも通うTSUTAYAは毎回行っても全てレンタルされている様な人気ぶり。
冒頭で色々批判的なことを書いた私ですが、ミーハーなので、
その波に乗りたくなり、鑑賞をしてきました。

「この国の民主主義は形だけでいいんだよ」
終盤に田中哲司が放つセリフ。
私も含め、日本人は政治に関心がないのが現実。
この映画を観ると、詰め込み型の教育で、逆に関心を抱かせない様にしているのではないかとも思ってしまう。
だからこそ、この映画の様に政府がメディアを操り、
そのメディアに踊らされて、国民たちは政府が思った様な行動をとる。
平和そうに見えていた日本がとてつもなく独裁政権に思えてしまう本作は
政府に対する批判じゃなく、私たち国民への批判も完全にあると思う。
政府と国民の間で戦う新聞記者と政府の役人たち。
彼らが国のためと苦しみながらも、呑気に暮らしている僕たちは…と思ってしまう。
ラストをああいう持って行き方にしたのも、
我々観客に重いものを背負わせるためにしたのだと思う。
この負の連鎖を止めるのは誰なのか…。
赤木さんの手記が出された今だと、よりそれを親身に感じる。

公開当時から、なぜ日本人の役をシム・ウンギョンがやるのかと思っていたが、
帰国子女という役回りというところも納得行ったし、
それより日本のメディア・政府のあり方を第三者的にみれ、
日本人らしくなく行動できる役回りとして存在している重要なポジションだった。
どっちかはわからないが、シム・ウンギョンありきではなく、
この役ありきで配役されたのではないかと思える。

海外ではこういう政治を題材にした映画はよく撮られるが、
日本の政治に対する映画はあまり観たことが無い。
そういった点で、本作は邦画の中でも特別な1本だとは思う。
少なからず、政治に関心を持たなければとは思わされる。

冒頭でも述べた様に、
正直、日本アカデミー賞に利用された様に見える本作だが、
こうやって再燃していて、今観た人も軒並み高評価なのを見ていると、
この作品が逆手を取って日本アカデミー賞を利用した様にも見える。
『パラサイト』が本場アカデミー賞を獲った際に、
日本映画のダメさを批判する潮流ができていたが、
こうやって賞と作品がお互い利用しあって、
日本映画を良くしていけたら、とても良いと思う。
冒頭で、色々批判はしたけども、「利用する」のもいいことなんだなと学びました。