ちっちゃなきょゥじん

屍人荘の殺人のちっちゃなきょゥじんのネタバレレビュー・内容・結末

屍人荘の殺人(2019年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

とんでも映画の皮を被った本格ミステリ

公開日に観ました。
結論から言うと、評価に戸惑う迷作。
原作未読なので、やはり予告に無かった雑なゾンビ展開に、一瞬呆れました。
しかし謎解きの段階で、ゾンビ要素を加味した本格ミステリであったことが分かります。
ミステリ好きは、本格派からかけ離れた映像作品に落胆しがち。
なので、本格ミステリ映画は単純に嬉しい。
ただ残念ながら、本格ミステリとしては明確な欠陥もあり、不完全燃焼にもなりました。

以下の4点に分けて、感想を書きます。
1. ほぼ本格ミステリ
2. でもやっぱり欠陥が
3. キャラにハマる浜辺美波
4. 共感できる神木隆之介

1. ほぼ本格ミステリ
人によって"本格ミステリ"の定義は多少揺らぎますが、最も大事なのは「謎解きが行われる前に、読者に推理する材料が明示される」こと。
何より御法度なのは、謎解きの段階で新証拠や新証言が飛び出すこと。
刑事ドラマでありがちな、何の言及もされてない未登場の人物が犯人なのも、基本的にはガッカリ要素。
ただ、本来言及されるはずの常識的要素が、敢えて言及されなかったり、巧妙に言い換えられるのは、ルールの範囲内。
古典の代表は、エラリー・クイーン。
日本の新本格ミステリの代表は、綾辻行人。

本作は、合宿先に着いた時点から、伏線(ヒント)が張り巡らされており、最終的な謎解きに必須な要素は、ほぼ映像に写っています。
ただ、部屋の電源を入れる際、ルームキーに特異性がないことは、事前に知識が必要かもしれません。
また、本作最大の特徴であるゾンビ要素は、"The Walking Dead"などの作品で流布しているルールに馴染んでないと、何が問題すら理解できないかもしれません。
でも、ここら辺の前提を踏まえている人には、(新)本格ミステリとして楽しめる仕様になっています。

2. でもやっぱり欠陥が
ただ、原作はどうだかしりませんが、映画版ではゾンビ要素が全てにおいて雑すぎて、どうしたらゾン化するか? ゾンビの知能はどれほどなのか? 等のルールの説明が、ほぼ皆無です。
登場人物がこうなんじゃないと言ったり、ラジオから断片的な情報が流れますが、確定的な情報が皆無なので、推理の材料としては不確定過ぎます。
ゾンビの能力は、作品によって結構まちまち。
緩慢な動作が定番なのに、ゾンビも走る作品も散見されます。
コメディなら喋るゾンビ、賢いゾンビも登場。
本作のスタッフは、「トリック」シリーズでお馴染みの木村ひさし×蒔田光治コンビで、コメディ要素たっぷりなので、ある程度賢いゾンビもありな雰囲気です。
その結果、最後の謎解きにも、説得され切れない、もやもや感が残ります。
携帯の中を見られても嫌がらないのが、謎解きのヒントになりますが、そもそもパスワードなり、指紋認証なりのセキュリティをかけてない方がよっぽど変だし、そんな人は中を覗かれても平気なのかなと,思っちゃいます。

3. キャラにハマる浜辺美波
などと言いつつ、本作を楽しめたのは、浜辺美波のヒロイン力と、神木隆之介の共感力にある気がします。
浜辺美波は、これまでも原作付きの映像化で成功しています。
話題になった「あの花」のめんま。
「咲-saki-」だって、「賭ケグルイ」の蛇喰夢子も、ハマりまくってました。
無論、漫画やアニメのキャラに容姿やスタイルを含めて完全に同化することは不可能だけど、持ち前のピュアさだけでなく、凛々しさや凄みや狂気を画面に残すことで、2次元キャラも違和感なく体現してきました。
本作における若干高慢だったり、時折子供っぽかったりするキャラが,どれだけ原作どおりなのか分かりませんが、何をしてても美しく、眼福の極みでした。

4. 共感できる神木隆之介
子役の頃からルックスも声も美しく、イケメン俳優に成長した神木君。
と言っても、適度にイケメン過ぎず、人当たりもよく、親しみやすいキャラクター。
なので、等身大の青年を演じていると、とっても共感できます。
「11人もいる!」の真田一男のフツーっぽさは白眉で、がっつり感情移入しました。
本作の迷宮太郎も、気は優しいけど推理力はごくごく普通のワトソン役。
気持ちが分かり、応援したくなる主人公だったので、トンデモ映画だけど、彼の目線を保てたことで、振り落とされることなく、映画を楽しめました。