きゅうげん

ギレルモ・デル・トロのピノッキオのきゅうげんのネタバレレビュー・内容・結末

4.6

このレビューはネタバレを含みます

『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』
ギレルモ・デル・トロのピノッキオ!

ディズニー版アニメが有名な『ピノッキオの冒険』ですが、そもそもはカルロ・コッローディによる新聞連載の児童文学。
原作の発表当時は1880年代で、イタリア統一の直後。いわゆる“リソルジメント”というこの国家形成は、貴族や資本家など上流階級メインの運動で一般大衆は蚊帳の外でした。
(奇しくも明治維新と同じ時代・同じ性格をしています)
この頃カルロ青年は共和主義・自由主義の気風のなか、義勇兵やジャーナリストとして運動に参加しており、その関心は統一後の情操教育にあったようです。ただ単なる愛国的な道徳教育ではなく、統一運動で無視された文化的・経済的弱者の一般大衆を取り上げるべく、鋭く暗い社会風刺を盛り込んで生まれたのが『ピノッキオの冒険』です。

今回のギレルモ版ピノッキオはそんな本来の精神性を、ほかのどのピノッキオよりも真摯に描いた傑作だと思います。
社会や現実からつま弾きにされるような、変わった存在・愚かな存在・弱い存在こそ慈しみと励ましで迎えるギレルモらしさは、まさしく「小さいものや忘れられたものの守護者」であるブルー・フェアリーそのもの。

また注目すべきは「人生を大切なものにさせるのは、その限りある短さ」というセリフの通り、原作以上に濃厚に横たわる「生と死」というメインテーマ。
それは「人形であること」や「人間になること」という命題へ密接に関わるとともに、亡き息子を幻視するゼペット爺さんや、人間になりたいけど永遠にも生きたいピノッキオが、自分として自分らしく存在することを愛せる、優しさに満ちた本作独自のラストに繋がります。

それとやっぱり映画的に面白い!
クリケットの潰され芸とかお猿さんの悲喜劇感とか、歌と画の上手なマッチとか、十字架に絡めた問答とか、なにより鼻が伸びる特性を活かした“優しいウソ”の大活躍とか。ピノッキオであることを最大限に利用した演出が、どれもツボを抑えていて脱帽です。
「詐欺師キツネ×見世物小屋の座長」や「ロバになる子供の国→ファシズム軍隊幼年学校」という改変も英断で、ショービズの危うさ・政治の危うさを渡り歩くストーリーはとっても児童書らしい。
あとカーニバル周辺の完成度がすばらしすぎ。お猿さんが急いで帰る長回しシーンや伯爵のミュージカル場面など、ストップモーション・アニメの真髄を観させられました。
キャラクターやモンスターのデザインもぜんぶ最高! 
お気に入りは棺桶係のガイコツ黒うさぎです。

ギレルモ・デル・トロだからこその、ちょっぴり怖くてとっても優しいステキな御伽噺でした。