ペイン

行き止まりの世界に生まれてのペインのレビュー・感想・評価

4.3
『mid90s』が、ある種のファンタジー性でもって90年代全体を溢れんばかりの多幸感で包み込む作風の“A面”だとしたら、本作『行き止まりの世界に生まれて』は、よりその時代を生きた人の“個人の内面”に切り込んで、それをリアルに炙り出す作風の“B面”と言えそうだ。

昨年ほぼ同時期に公開されていた、このスケートボードを題材にした2作を2本立て出来たのはとても感慨深い。

アジア系アメリカ人のビン・リューが監督・製作・撮影・編集、出演を担当し、アメリカのラストベルト(錆びついた工業地帯)を舞台に、鬱屈した思いをスケートボードにぶつけ、成長していく3人のサグい若者の姿を映し出すまさしく“14歳のボクが、大人になるまで”ともいうべく、奇跡的なドキュメンタリー。

冒頭、これは本当にドキュメンタリーなのか?と見紛うほどの美しい映像とカメラワークで捉えられるスケボーをする3人の若者たち(スケボーの技量も高い)。だが観ていくと次第に人種問題や家族関係、貧困、家庭内暴力といった現代人が直面するさまざまな問題が浮かびあってくる。特に3人の若者の中でもザックがなんとも憎めないダメ愛おしい奴で凄く感情移入させられた(酒とドラッグに溺れて妻に暴力を振るってしまうような奴ですが)。

“完璧な親になるには完璧な人間である必要はない”等、時折映し出される看板の言葉にもグッとくるものがあった。あと黒人のキアーの父親が言っていた、“例え白人の仲間がいようと、自分が黒人であることを忘れるな”という言葉にも胸を打たれた。難しいけれど、人種に限らず“自分が何者か”ということを把握するのは大事なことだなと。
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