竜どん

天気の子の竜どんのレビュー・感想・評価

天気の子(2019年製作の映画)
3.1
17年前下北沢で『ほしのこえ』:新海誠の作品を初めて観た時、「コレ1人で作ったんかスゲェ!」けど「随分独りよがりな話描くなぁ」という感想しか無かった。
本作『天気の子』はウケる要素を詰め込んだと監督自身が標榜する『君の名は』よりも余程新海っぽい作品に感じる。あーやっちまったかなと思うかコレが新海だよなと思うかで評価の分かれそうなトコロ。

本作は新海監督の得意ジャンルとするところのSF(ファンタジー?)カテゴリに分類される。
新海作品の主人公は一貫して我儘で利己的かつ青臭いガキの独善的な暴走が描かれることが多いが、本作も同様。ストーリーもほぼ主人公帆高の主観で進み、作中の視点は非常に狭い。狭いが故にラブストーリー的要素を満たす上では観客は感情移入しやすく、自己投影も容易くハマる。湿気にけぶる新宿の街並、雨粒や雲間の日差し、晴れ渡る空等々もはや新海誠の代名詞である緻密で美しい背景描写は今作の題材を表現するに正にピッタリであるしRADの音楽との親和性も高く、観ていて気持ちが良い。
この手法はボーイミーツガール的な甘酸っぱいジュブナイルが展開している内はいいのだが、後半キャラクターの状況が重くなっていくにつれて、じわじわと違和感が見えてくる。陽菜のある意味驚異的とも言える能力にハリウッド作品なら陽菜の能力を利用しようと国や謎の機関が暗躍しそうなものだが、この作品はそうはならない…と言うか科学的考察は一切されない。帆高の厨二病っぷり、須賀(大人)とのすれ違い、警察との異常なばかりの確執とネガティブな部分ばかりが目についてしまう。消えゆく陽菜との別れのシーン、彼女との再会を遂げるための帆高の疾走、本来盛り上がる筈の場面にそれが出来ないのは何故か。キャッチーかつスピーディー軽やかであるが故に、キャラクター達に深い繋がりを持たせるに足る観客を劇中に引き込むドラマチックな場面が圧倒的に足らないのだ。
斜に構えた現代の若者の不安定さを新海はこう描くのだと言われればそれまでなのだが、映画としての没入感が今ひとつ得られなかったというのが個人的な感想。新海作品が『君の名は』まで一般に支持されなかったのは、毎作毎作この点が足りないからではなかろうか。

…と難点をあげつらってはみましたが、単純にエンターテイメントとして観ると本『天気の子』はなかなかの出来栄え。
前述の通り背景の美麗さは言うに及ばず、キャラクターの表情の細やかさ・演技、カメラワークは他の劇場版アニメは見習って欲しい程。また特に音響に関しては『君の名は』に比べて格段に重層的で臨場感が増してましたね。
非常に高い次元で完成しているからこそ、勿体無いなぁと思ってしまう次第です。結構長い時間観続けている監督であり折角大々的に世に名前が知られたのだから、成功して欲しいんですよねぇ。
ま・クリエイターが作風を簡単に変えられたら苦労はしないんですけどね。
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