若

2分の1の魔法の若のネタバレレビュー・内容・結末

2分の1の魔法(2020年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

世界観はいわゆる「よくあるRPG」の現代版で、エルフ、ケンタウロス、妖精、ドラゴン、ペガサスとの共生はできているが、科学の進歩によって魔法が廃れた世界。この説明も簡潔で、しかも2度同じ説明があったため、理解するのは容易だろう。作品のメインターゲットはいわゆる「男子」に狭く絞られていて、それが予告ではさほど感じ取れなかったために酷評されることもあるのだろう。しかし、ターゲット層には、しっかり刺さる先品になっているとおもう。現に自分はこのメインターゲットであり、十分に作品を楽しむことができた。広告や予告編では、主人公イアンの成長の物語、というような魅せ方をしているが、実際はイアン視点ではあるものの、バーリーが弟や父との冒険をする物語だった。幼いころ、別れも言えずに亡くした父との再会のチャンスを弟と掴み、再開に向けて必死に進む物語。夕日をバックにハグするシーンは泣かずにはいられない。
作中に出てくる魔法は、復活の呪文+5つ(浮遊、拡大、見えない橋、加速、雷)で、この5つを駆使してドラゴンと戦うのは、わかりやすくイアンの成長を表現できていてよかったし、なによりかっこよかった。このシーンでは母親の活躍の場もあり、よかったと思う。欲を言えば、コーリーもかつての戦士らしく、もう少し戦力になる場面があってもよかったと思う。ラストシーンでの問題点を挙げるとすれば、母親に彼氏がいることである。何十年にも渡り異性愛を神格化し、姉妹愛、家族愛を大切に描いてきたディズニー系列の作品であるのに、夫婦間の愛や情の類が、一切描かれていなかった。母親がドラゴンを攻撃した際も、「愛すべき夫に」というよりも「息子のため」という見え方がしたし、もっと言えば「とりあえず女性を活躍させておけば文句は言われないだろう」というような背景が透けて見えてしまっている(実際には女性が活躍するシーンを無理やりねじ込まれたのかもしれない)。家族4人があの場に揃い、みんなの力で父親を復活させ、兄だけが再開する感動的なシーンなのに、母親の横に彼氏がいるせいで感動がだいぶ薄れてしまった。また、父から妻に対しての思いの描写もなく、本当に夫婦関係であったかどうか疑問になるくらいであった。実際Cパートで、ブロンコが当たり前のように家にいて、イアンともなじめているような雰囲気をだしているが、少なくとも一夫一妻制の環境で育った自分としては不快でしかなかった。トイストーリー4からジョン・ラセターが消え、社内環境は良くなったのかもしれないが、作品のクオリティの面では、むしろ問題は増えているように思える。オマージュとしては、「トイ・ストーリー」(1997)のイメージであろうガソリンスタンドとインディ・ジョーンズ レイダース/失われたアーク(1981)がわかりやすかっただろう。とくに後者は、細かく伏線を張っていて、恐怖をあおっていたゼラチンキューブの登場もあり、パロディ元以上の緊張感でみることができた。緊張感で言えば、橋渡しのシーンもなかなかのものでロープがほどけても伝えられずに嘘つく兄、調子に乗るイアン、このシーンでは劇場の誰もが息をのんだことだろう。このあたりの、橋渡し~愛車を飛ばして打開~遺跡、水攻めの流れは熱いものがあった。対象をワクワクさせる演出は、パロディ元の映画や、クリスタルスカルの魔球を知らなくても楽しめただろう。愛車の「グウィネヴィア」と飛ばしながらも、ボロと言い捨てるシーンでは、兄の覚悟が見て取れて、この冒険にかける意志の重さを再確認させられた。イアンが雷魔法を使えないと判断し、自らの大切なものを犠牲にする判断力行動力は、この冒険のなかで得たものだろう。他にもよかったシーンは山ほどある。中でも秀逸なのは杖のささくれで、兄の手に刺さった件でギャグとして成立して、イアンも刺さって天丼、やすりかけたいというイアンに対するコメントが伏線、身の回りの物を使うんだという兄の言葉も相まって、すごい勢いで散らばった伏線を回収していった、なかなか真似できない、丁寧で格別な演出であった。それでいうと、ものも言えない、聞こえない、見えない父親が息子と認識するために、わずかな思い出で兄を判別していたのはクライマックス並みに感動してしまった。ただ、それ以降父の扱いがどんどん雑になり、リードで引っ張ってもの扱いされているのは可哀そうで仕方なかった。
キャスティングの問題、ローレル役の近藤春菜に触れないわけにはいかないだろう。事前情報は入れていなかったが、第一声で春奈だと分かり、それ以降近藤春菜にしか見えなかった。やはりプロの役者との違いが明確に出てしまっていた。この近藤春菜の抜擢にどれ程の広告効果があったのかはわからないが、作品の質を上げたほうがよかったように思える。
いい映画を見終わったなと、エンドロールを見ていると流れてくる「全力少年」。これには雰囲気をぶち壊され、とても嫌な気持ちになった。別に物語にぴったりと当てはまる歌詞でもないし、城田優さん志厳淳さんが歌っているわけでもないので日本語版主題歌と言われても、納得はできない。完全に蛇足だといえる。
若