くるぶし

2分の1の魔法のくるぶしのレビュー・感想・評価

2分の1の魔法(2020年製作の映画)
3.8
非常に上手い映画だと思う。
特にクライマックス。話の持って行き方、落としどころどれをとっても一級品。思わず泣いてしまった。これだけでも今、観る価値がある。

「上手い」と表現したのは理由がある。つけた点数を見ればわかるかもしれないが、両手放しで大傑作とは言えない。

上手ポイント① ストーリー展開
冒頭はある人物の語りからスタート。ファンタジーな世界が目の前に広がっていく様はさながらヒックとドラゴンのよう。
ストーリーは非常に明快かつ緻密でテンポも早い。タイムリミットや目的がハッキリしてるため話の推進力が欠くことはない。非常に優れていて上手いテリングだと思う。が。

上手すぎて何というか、技術すげーってなってしまった。
すっごい綺麗な絵画をよくよく目を凝らしてみたら下書きの線がうっすら残ってた感じ?
なんとも表現しづらいが、所々システマチックだと感じてしまう瞬間がありそこで没入感が削がれてしまった。1つ1つシーンに起承転結があるために、ちょっともう、それはってゆうのも。

はっきり言えばうじうじシーンが目に余る。主人公たちが衝突したり落ち込んだりが多いけど細かく起承転結を散りばめている分すぐ立ち直る。とても素晴らしい技術で相当練った脚本だと感じたが、「練ってるな〜」と感じさせてしまっているとも言える。
落語家はガチの達人になると逆に心地良すぎて眠くなるという。これに沿って考えると、技術凄いし話も上手いんだけど練習の痕が滲み出る若手落語家みたいな。熟練の技が生み出す形容できない心地良さというのはまだ備わっていない。フレッシュさはあるから好きだけども。

上手ポイント② 伏線
伏線が非常に巧み。無駄な伏線は一つもなかったんじゃないかなあ。一つ一つのシーンに明確に役割があってクライマックスで一気に昇華されるのは見もの。相当計算しないとこんな風にならないここだけはまじでエグい。ただクライマックスに焦点を絞りすぎて若干伏線が雑に感じてしまうことも。
脚本を練った痕が見えるということはそこに含まれる伏線も見えてきてしまうということ。よく言えば王道だが悪く言ってしまうと裏切りが少ない。
ただ、それは伏線の張り方に限った話でクライマックスはこれまでの雑めな伏線の張り方さえも伏線だったかと思うような気持ちのいい裏切りが待っているということは強く推したい。

上手ポイント③ キャラクター(世界観)
決してポップとは言えないがキャラのパーソナリティを知ることで愛らしく感じるようなデザイン。ポリコレポリコレうるさい世の中であえて架空のクリーチャーを主人公に据えることで黙らす力技は清々しくもある。
ただポリコレを意識してるなあと思わせるのも難しいところではある。色んなバックボーンを持ったキャラが登場するが、明らかにどこかに配慮している設定のものも少なくはない。まあなんというか難しい時代だなあと思ったし作る側も相当頭悩ませてんだろうなあとも感じた。
こうゆうことが当たり前の世の中になればノイズも無くなるんだろうに。
メッセージ性はとても良かった。
世界観でもう一つだけ言うのであれば結構作品内では時代が進んでるのに混血っていないのかなとちょっとだけ思った。ややこしくなるからそこまでやらない方が正解だと思うけど。

上手いポイント④ 吹き替え
時間が合わず吹き替えでみたが結構よかった。志尊淳と城田優は上手くてかなりなじんでたと思う。ただハリセンボンはるな、テメーはダメだ。見た目が似てるからというあまりにも安直で安易な発想でキャスティングされたんだろう。下手すぎてノイズでしかなかった。非常に惜しい。
日本の吹き替えのキャスティングする人、一応オーディションはやれ。

以上のように上手いことが逆にあだになってる面もあるのが惜しいところ。
この監督と脚本家のタッグはまだ2作目ということで、これから様々な作品を手掛けていく中で技術だけじゃなくてバイブスも入れられるようになっていくだろう。楽しみ。

ネチネチ細かいことばかり言ってしまったが、感動し心が揺さぶられ涙を流したのは事実。観て良かったと正直に思える作品であるのは間違いない。クライマックスに尽きる。まじでいいからあれ観といた方がいい。
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