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黒い司法 0%からの奇跡のsomaddesignのレビュー・感想・評価

黒い司法 0%からの奇跡(2019年製作の映画)
5.0
アラバマ物語が見たくなった!

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不勉強にもアメリカ映画史のみならず、アメリカ史的にも重要な傑作「アラバマ物語」を見たことがない。もちろんハーパー・リーの原作も未読。本作中で度々「あなたアラバマ物語読んだ?あの舞台がここよ!」って薦められるもんだから、どんな作品なのか気になっちゃって見終わってスグ調べた。


「アラバマ物語」を調べた後で本作を思い返すと、全然違う時代なのに未だに同じような冤罪事件の物語だし、南部の人種差別の根深さ・闇深さにおののく。冤罪事件の調査にきた黒人弁護士に白人が薦めるっていうのもなんだか滑稽。「アラバマ物語」が撮られた60年代アメリカの社会背景や制作の苦労〜公開後の影響を考えると、本作が制作される意義みたいのを感じて胸熱。

1980年代が舞台で、1964年の公民権法制定から20年以上経過しても、色濃く当然のように差別が横行してる現状。さらに30年以上経過した今も賃金・機会の差はもとより、偏見による司法の横暴も終わっていない。

原作はブライアン・スティーブンソンのノンフィクション原題「JUST MERCY」。日本語版だと「黒い司法 死刑大国アメリカの冤罪」2014年刊。原作の日本語化からして随分な邦題に変えちゃってたのね。

最近見た「リチャード・ジュエル」やNetflix「Making a Murderer 殺人者の道」みてると、差別意識や先入観で捜査して、不都合な証拠・証言を握り潰すって良くあることのように思えてきちゃう。(レアケースだと信じたい)。
警察の怠慢が原因の冤罪事件って、遠い異国の話でなく日本でも『警察官ネコババ事件』といった事件もあるし、そう他人事に思えない。


公式サイトに傍聴芸人・阿蘇山大噴火が寄せたコメント『「事実なんだから分かってくれる」そう言って有罪になった被告人を沢山見てる者としては、苦しくもあり爽快でもあり。これは国や状況が違っても同じでしょう。真実は何気ない当たり前の事だけど、何よりも価値があるのだ。』が重い。

マイケル・B・ジョーダンの正義に燃える姿がカッコ良かった。何度打ちのめされても立ち上がる姿はクリードを連想する。裏腹に、スーツやシャツがヨレヨレになってく様もよくて、服に構ってられない激務っぷりと清貧の人ぽい。
バディとなるジェイミー・フォックスのいい具合の弱さも良くて、長年虐げられてきたが故の諦観と、それでも現状と戦いたい葛藤で引き裂かれていく。若く理想に燃えるブライアンが、老いた現状に諦めて受け入れるしかないオッサンにもう一度火をつける年の差バディモノとしても熱い。デンゼル・ワシントンの「ハリケーン」みたいな。

ブリー・ラーソンは「ルーム」といい「キャプテン・マーベル」といい試練が似合う。勇敢に困難に立ち向かう気の強い顔が今作でも炸裂。炸裂しすぎて役不足っちゅーか、エバが異様に頼もしく見えちゃうし、ブリー・ラーソンである必要を感じなかった。

ブライアンの事務所のタイプライターがPC(ワープロ専用機?)に変化してたり、ネジネジ電話がコードレスフォンに変化したり、エバの服装の変化で80年代〜90年代の移り変わりが見えるの楽しかった。映画内では一瞬のカットでも、すごく時間が経過してる描写でもあって、その間ジョニー・Dは獄中で過ごしてたんだよなあ…と理不尽に奪われた彼の時間のことを考える。

冒頭で酷い態度の刑務官が、仕事や裁判を通じて改心していく様が救いだった。


24本目
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