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火口のふたりのFrengersのネタバレレビュー・内容・結末

火口のふたり(2019年製作の映画)
2.5

このレビューはネタバレを含みます

劇場鑑賞。面白い部分もあるにはある。冒頭の男女それぞれのシーンで走る新幹線から、家で相手の後を追っていくという前半は面白いし、長回しを基調にしながら、映像の語彙も豊か。幾つもの奥行きのある映像の反復は印象的だった。恐らく生々しさや肉体性の表現である食事のシーンも悪くはない。
 ただ、恐ろしく古臭い。冒頭の三連のリズムに合わせてなるギターの音から、とても2010年代の後半に作られた作品とは思えない。瀧内公美演じる直子の一番最初の青のデニム+水色のタンクトップ+ビーチサンダルも手抜きにしか感じられない。美術も特に目を見張るものはない。「坂の上の雲」である必要はどのあたりにあったのかわからない。祭りのシーン含む夜のシーンの照明はまだ頑張っていた方かもしれない。そして本作の触れ込みでもある肉体の声はどうかといえば、体の動きや衝動が捉えられているシーンはごくわずか。ピークは一番最初の賢治のうえで腰を振る直子のシーン。後のベットシーンは体の動きというより晒しているだけで静的だ。カメラを動かしたり、長回しでなんとか持続させているだけで「体の声」を映像から感じ取ることはない。
 それにしても、この映画には2010年代の#MeTooを経た、女性の立場が見直された痕跡が全くない。直子はあまりにも「男に都合の良い女」というステレオタイプすぎるのではないか、と男の私でも感じる。冒頭の黒いアルバムに収められていた写真が全て男目線で捉えられたもので、その写真を懇切丁寧に保存している女性というのはさすがにきつい。しかも賢治が冒頭と終盤に来ていたシャツを直子の着せて、男の問いかけに「いいよ」と言わせるのは流石にないだろう。このナルシスティックなカップルがさらに東日本大震災や富士山の噴火といった問題と自分を結び付けるのもたまったものではない。最後の噴火の画と喘ぎ声を重ねる演出も時代遅れとしか思えない。
 この男目線に支えられた映画にポルノすれすれの演技をして体当たりの演技、名演といわれるのは流石にグロテスクだし時代錯誤だ。女性の意見が聞きたくなる映画だった。シャーリーズ・セロンやジェシカ・チャステインはこの国からは出てこないのかな。瀧内公美頑張れ。

あと肉体の躍動にも関わらず汗一つかかないのは変。夏の描写が活きていない。
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