福福吉吉

眠る村の福福吉吉のレビュー・感想・評価

眠る村(2019年製作の映画)
4.0
◆概要◆
昭和36年に発生した名張毒ぶどう酒事件で一審で無罪とされながら高裁、最高裁で死刑判決となった奥西勝の再審請求を退け続けた司法の実態と事件とそれに関わる人々の思いを描いた作品。

◆感想◆
本作の事件の詳細を初めて知りましたが、事件自体は凶悪で決して許せないものでありますが、事件の舞台となった葛尾村の閉鎖的な環境と、検察・裁判所の異常なまでの自白重視が生み出した限りなく冤罪に近い逮捕劇だったように感じました。

奥西勝は警察の強要により犯行を自白したことで死刑となり、再三の再審請求も棄却され、無念の獄中死を迎えました。奥西勝の自白の信用性について、被告の弁護団が提出する科学に基づいた新しい証拠を提示するのですが、司法はその証拠について何も判断することなく自白は信用できるとして再審を拒否し続けます。これでは警察や検察の言いなりで裁判所は司法としての役目をはたしていません。裁判所は検察官と被告人のどちらにも傾いてはいけないはずです。司法に対して絶望感を感じました。

本作は葛尾村の村人たちについても取材しているのだが、これが村人たちが悪く見えるような描かれ方は少し極端なように感じました。村人たちは被告が逮捕する前と逮捕後で証言を変えており、そのことを追及するのですが、村人たちは取材陣へまともに応じません。女性5人が目の前で亡くなってしまったことを考えると村人たちの対応が間違っているようには感じませんでした。村人たちの中にあるのは「早くこの事件を終わらせたい」という思いだけだと思います。

奥西勝の妹さんが兄の名誉を挽回するために再審請求を引き継いでいる姿が描かれていますが、その妹さんが再審請求を棄却された日、「裁判長は私が死ぬのを待っているのかな」とつぶやきます。妹さん以外、再審請求を引き継ぐ人がおらず、それはとても悲しく辛いシーンでした。

昭和の事件ですが、現在もこの司法の姿勢は変わっておらず、とても危惧すべき状況であることを確認できる作品でした。

鑑賞日:2023年9月8日
鑑賞方法:CS 日本映画専門チャンネル
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