KnightsofOdessa

王国(あるいはその家について)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

5.0
[骨を作り、肉を付けること] 100点

超絶大傑作。題名からして今年ぶっちぎりの優勝なのだが、その中身も凄かった。取り調べで供述書を読み上げるという形で物語のプロットを導入し、セリフを入れて動きを入れることで、ただの文字を生きたものに変えていく過程を見せ続ける。基本的には全く同じことの繰り返しなのだが、言い方や速さを変えることで微妙にニュアンスが変わっていき、会話の間を変えることで呼吸が見えてくるようになる。台本から目を離し、そこに動作を加えることで、目線や人との距離感、そこから新たに生まれる間などを生成し、命を吹き込んでいく。カメラでの人物の抜き方も異なってくる。舐めるように三人を撮す、話者を撮して耳を傾けるように促す、そうかと思えばアキを撮して続ける。それぞれが全く異なった印象を与えるのだ。

一方で、王国とは人を守るシェルターのような役割を果たす一種の心理的空間を指している。人間関係そのものと言い換えても良いかもしれない。他人同士の王国に入ることは出来ないが、自分が含まれていれば入城できる秘密の世界。『乙女の祈り』じゃんというツッコミはさて置き、東京の生活に消耗して地元に戻ってきたアキが見た幼馴染の幸福、それが自分の理想との違っていること、そして決定的に幼馴染とは異質であるその娘との交流を強いられること、これを繰り返すことでアキが少しづつ壊れていくような印象を受ける。自分の割札は差し出しているのに、永遠に入れなくなった古い王国を思い起こして凶行に至ったのはパルス的な感情に基づくのかもしれないが、それに至るまでの道筋はキレイに提示されていた。面白いのは、物語の中の狂気というのが、繰り返しを強いる映画にも感染しているということ。

もう一つ興味深い点を言うなら、2時間半に及ぶ練習のモンタージュに、その後殺される娘は一切登場しないのだ。これが不気味過ぎる。感情を伴わないセリフ読みを繰り返しているせいで、本当に死んでしまった後になって、当時の状況を再現しているのではないかという感覚にすら陥る。

エンディングのGRIM『Heritage』も最高。どこかけだるげで死の匂いがするこの曲が、これまで生を与え続け、娘を殺し続けたこの映画を締め括るにはピッタリだった。
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