ケジメピザ

ワイルドツアーのケジメピザのレビュー・感想・評価

ワイルドツアー(2018年製作の映画)
2.5
卒業制作かと思いきや

2022年『ケイコ 目を澄ませて』の三宅唱監督作との事で WOWOWにて録画鑑賞 『ケイコ~』から遡って4年前の作品

山口市に実際にある「アートセンター 山口情報芸術センター」YCAM(ワイカム)の研究開発チーム「YCAMインターラボ」とのコラボ作品との事で 一般的な商業作品とはちょっと違う造り

オープニングはiPhoneの映像からスタートし そのカメラは道すがらの街並みを映す
暫くすると カメラの主が小柄の女性であり 19歳の大学生でファシリテーションの勉強のために このバイオラボに参加した 中園うめ(伊藤帆乃花)という事が分かる なるほどこの人が主人公か

この オープニングで舞台設定やそのロケーションや主演をシッカリと見せて それとなしに紹介するテクニックは定石と言えばそうなのだが 出来ていない作品も多い中 それを手を抜かずにしっかりとやっているのは好感が持てるし その映像のカメラとキャストとの距離感に監督のセンスが表れている


冒頭 YCAMの山口市の植物のDNAを採取するというワークショップが始まり この辺りはYCAMの出演者を含めドキュメントの様相
主人公から更に若い参加者たちは 中学生で私の印象だと「ザ・真面目」と言った部類の学生に見えたのだが 今どきの子供はこうなのかも知れない

何にせよ 自宅や学校の近所にこんな施設があり参加できるのは 素直に羨ましい 正に時代と世代の違いと IT革命の恩恵と言えるでしょう

2018年2月3日(土)から始まり ほんの一ヶ月程度のこの物語は 実際は監督がYCAMから呼ばれて 彼らとともに劇中のDNA採取などのバイオラボの活動を共にしながら 8か月かけて撮影された物

今作に登場するキャストたちも 地元の中高生でその脚本も彼らと撮影しながら作り上げた物との事

当然 画面に映る彼は役者ではなく 芝居と言えるレベルの物ではない
だが これが決して悪くはなく 学生を映したドキュメンタリーとしてみれば十分である
だが 逆に演出を付けられて演技をしているパートとの差があり ちょっと浮いて見えてしまうのも事実だろう

この撮影に参加した事が 彼らの人生の思い出となるだけでなく 後に役者として目が出て「あの頃映像」として発掘されるようになれば素敵な事だ

惜しむらくは 冒頭から中盤まではコラボが上手く機能していて どう展開するのか期待できるのだが 後半はYCAMほったらかしで「青春学園物」に収れんしてしまっている事だろう

最後は 冒頭の梅ちゃんが登場するシーンとオーバーラップし シュンがうめちゃんと同じ物を撮影し 二人の感性が同じ事を観客に見せるて終わる


多分 プロ用カメラではなく「デジタル一眼レフ」で撮っているであろう映像なのだが その割に録音が良い
環境音も強めに拾っていて そんなに指向性の高い(良い)マイクを使っていないと思うのだが 必要な音はシッカリと撮れており その場の空気感や雰囲気は十分に伝わって来る

終盤 シュンがPCでうめちゃんの映像を見ているシーンが上手かった
ガラスに映像を映し それを見るシュンの顔をカメラは正面から捉える
観客はPCモニターの中から シュンの顔を覗き込む形になる
コレはユーリ・ノルシュテインの撮影方法と同じだが 表現の方法は違う
監督は 彼を知っていてのオマージュだったのか聞いてみたい


三宅唱監督のファンなら 見る価値のある作品
そうでないなら 特におすすめはしない
ケジメピザ

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