真一

ジュディット・ホテルの真一のレビュー・感想・評価

ジュディット・ホテル(2018年製作の映画)
3.6
 「苦痛に満ちた現世はごめんだ。早く死にたい」。こんな風に、自暴自棄に陥った時に観ると良さそうなのが、このフランス短編映画です。舞台は「永眠」(死)希望者の願いを必ずかなえるという、怪しげなホテル。そんなホテルに、猛烈な不眠症にさいなまれる主人公レミがチェック・インする。永眠を求めるレミにとっては、待ちに待った一夜のはずだったが…。まさに、フランス版の「世にも奇妙な物語」。死にたい気分とは何か。生きる意味とは何か。いろいろと考えさせられる良作です。

※以下、ネタバレあり。

 このホテルの名前は「JUDITH HOTEL」。注目のサービスは①お客さまを永眠に導くために使う武器を、御自身であらかじめ選んでいただきます②最後の晩餐を、お客さま御一同で楽しんでいただきます③その後、スタッフから受け取った効果バツグンの睡眠薬を飲んでいただきます④腕利きのスタッフがあらかじめ指定された武器を使い、就寝中のあなた様を永眠に導きます―という流れだ。

 見せ場は「睡眠剤を飲むとアレルギーを引き起こすから、別の方法で私を寝かしつけてほしい」というレミの要求に対し、ホテルが応えるシーン。ホテルのスタッフが突然、レミの部屋のカギを外側からロックし、監禁する。「このままだと、睡眠できないままショットガンで撃ち殺される」と感じたレミは、恐怖のあまり泣き叫び、そのうち疲れて熟睡してしまう。そして目が覚めるレミ。「うーん、よく眠れた。爽やかだ!」。こうして喜びに浸っているレミは、ショットガンを持って部屋に入ってきたスタッフに「気が変わった。僕は生きることにした!」と叫ぶ―。

 この世に未練がなくなった宿泊客は、レミを含め、いずれも富裕層に見えた。その富裕層を殺傷兵器で「永眠」させ、血まみれの死体を片付ける女性スタッフの事務的な仕草が、印象的だった。高いカネを出して「永眠」の特権を得た富裕層の亡きがらなど、生ゴミ以外の何物でもないという雰囲気が、伝わってくる。

 スタッフの真っ赤なコスチューム。レトロなホテル館内。音楽を奏でるようなフランス語。シュールで、オシャレで、グロさも漂う不思議な世界観に魅了されました。英語字幕しかないのが難点ですが、映像を眺めるだけでも楽しめると思います。

 ちなみにホテル名の「JUDITH」は、旧約聖書に出てくる女性だとのこと。襲いかかる敵軍の将を、自らの美貌で籠絡し、寝首をかいて郷土を守ったという武勇伝が残っています。じわじわと来る題名です。
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