真一

菊とギロチンの真一のレビュー・感想・評価

菊とギロチン(2016年製作の映画)
4.3
官憲は上官に媚び、庶民を蹴散らす。

男たちは官憲に媚び、嫁を殴り犯す。

日本人は「菊」の旗の下、朝鮮人を斬り殺す。

 本作品は、軍国主義日本の偽りの仮面を剥ぎ取り、その「強きに媚び、弱きを弄ぶ」下劣な本質を突いた力作です。生きるために女相撲一座に駆け込んだ、下層階級の女たち。中には朝鮮人の女性も。そんな彼女たちの目を通じ、軍靴が聞こえつつあった1920年代中半の漁村を舞台に、正視に耐えない「男たちの暴力」を生々しく描いています。

 同時に、こうしたレイシズムやパターナリズムを今なお払拭できない私たちに対し、警鐘を鳴らしているように感じました。

※以下、ネタバレ含みます。

 特筆すべきは、関東大震災時に広がった「朝鮮人が井戸に入れた」という差別デマについて、村人が語る場面です。本作品は、この村人の口を借りて、警視庁のトップ(官房主事)だった正力松太郎の名を挙げます。「正力が流言を煽ったらしい」と訴えるのです。正力松太郎と言えば、言わずと知れた特高警察のドン。戦後は読売新聞社主として君臨した超大物です。

 デマが引き起こした朝鮮人虐殺。その歴史的事実を日本政府自らが隠そうとする現在において、右翼の嫌がらせを恐れずに切り込んだ瀬々敬久監督に、拍手を送りたいです。

 そして朝鮮人力士・十勝川を演じた韓英恵の迫真の演技に、胸を引き裂かれました。恋仲に落ちた無政府主義者の中浜(東出昌大)が自警団に斬首されそうになった時、拷問を受けて半死半生だった十勝川が、絶対に言うはずのないあの言葉を、命乞いのために口にします。

「てんのうへいか、ばんざい…」

嗚咽まみれの天皇陛下万歳。
惨めで悲痛な天皇陛下万歳。

日本軍国主義の頂点に君臨し、今もタブー視される「菊の紋章」を、本作品は完璧に撃ち抜いています。

魂を揺さぶられました。

所要時間は3時間超。正直長かったです。無政府主義者グループが抱える理想と現実のギャップの描写は、さすがに詰め込みすぎだと感じました。ただ、右傾化が進むこの時代において、負の歴史に向き合った本作品は、間違いなく称賛に値する一本です。今の日本に危うさを感じる方には、刺さると思います。
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