雄貴AUE

宮本から君への雄貴AUEのレビュー・感想・評価

宮本から君へ(2019年製作の映画)
4.7
先に言っておくと僕は新井英樹の漫画の大ファンで、人生でベスト漫画といっても過言ではないレベルで原作が好きなので、どうしてもそれベースのレビューになってしまうので悪しからず。


話の筋を概説したりするような野暮な真似はしないが、あえて言うなら普通のサラリーマンがほんの少し意地をはる、それだけの映画。

宮本は普通にヘタレで、ショボくて、ふわっとした可愛い女に惚れて振られたのをだらだら引きずっているような(この辺りが映画では描かれていないので、やたら宮本が男気ある風に見えるが、原作的にはそんなことはない)、さらには一度出したことを引っ込めるということを知らない、意地っ張りな男。

つまり宮本なんて奴はそこら中に転がっている程度の男であることが前提の話だと思っているので、宮本すごいなー、がんばってんなー、じゃなくて、宮本に『中途半端にやるな!』と喝入れられながら観ている気持ちだった。
この映画は文字通り宮本から『君へ』の物語だし、宮本は全ての『君』でもある。この辺は、映画だと恋愛にフォーカス向きがちだけど、漫画では仕事とか家族とか、そういうのも全部ひっくるめた「人間」みたいなものへの讃歌として描かれていて、映画にハマった人もハマんなかった人も是非読んでみてもらいたい!


なんだか原作を宣伝しているだけのようになってしまっているけど、イチ邦画としても格別に良いものだったと思う。

前述のような不器用な宮本が、ともすると粗暴だとか融通がきかないとかって風にも見られてしまいそうなところを、映画版の短い尺で監督と池松壮亮はすごく魅力的な男にしてくれた。
蒼井優も、靖子という女の表裏一体の強さ/弱さみたいなものをすごい繊細に演じていて、超ハマってて最高。いい女だぜ、靖子。

あとは漫画では一方向の時系列で描かれている話を、現在と過去を行き来する形で描いたのも好きだった。漫画では仕事編、恋愛編、結婚編みたいな感じで進んでいくのがむしろ良いんだけど、映画だと間延びしちゃうからね。すごい綺麗に物語の展開というか盛り上がりを整えてくれてたと思う。

そしてエンドロールの『宮本』くんの歌ね。もう、ほんとに、最高。
大音量であの歌を聞くためにもう一度劇場にいこうかしら。

とにかく、仕事、恋人、友人、家族、生活、人生、世間、そんな色んなものとちっちゃく戦いながら生きてる人に、なんなら俺みたいに連敗中の人に、ぜひ見てもらいたい。出来れば漫画も。長いけど。
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