MasaichiYaguchi

無垢なる証人のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

無垢なる証人(2019年製作の映画)
4.3
古くは「レインマン」、あと「マラソン」「海洋天堂」「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」等、枚挙に暇がない程、自閉症をモチーフにした映画は名作が多い。
「私の頭の中の消しゴム」「アシュラ」のチョン・ウソンと「神と共に」2部作のキム・ヒャンギが共演し、「優しい嘘」のイ・ハン監督がメガホンを取った本作で繰り広げられる法廷劇では自閉症の少女が重要な役割を果たし、主人公をはじめ我々観客の心を鷲掴みにする。
住宅街で起きた裕福な老人の変死事件、果たして自殺なのか殺人事件なのか、唯一の目撃者である自閉症の少女ジウの証言をもとに容疑者となった家政婦の担当弁護士となったスノは、無罪を立証する為に裁判の鍵を握る少女に接触を図っていく。
人権弁護士であったスノは認知症の老父と借金を抱え、信義よりも現実をとって遣り手の弁護士事務所に入って立身出世を目指していく。
そんな折、事務所の代表から指名されて本件に取り組むのだが、あっさり無罪を勝ち取ると思われた案件は意外な様相を呈していく。
この俗物化しつつある彼を変えていくのがジウなのだが、このジウ役のキム・ヒャンギの演技が上手くて思わず引き込まれてしまう。
我々は自閉症者に対して言外の意味を含めて相手が伝えようとしていることが理解出来ない、コミュニケーションの質的な障害がある、興味や活動に偏りがあるということから色眼鏡で見勝ちだ。
本作でもスノをはじめとして脳機能障害者として裁判からジウを“排除”しようとし、少女もそのことによって傷付くのだが、終盤からラストにかけての展開で映画が描きたかったこと、その“本領”を発揮する。
人は大人になると日和って「長いものには巻かれろ」になっていく。
だから無垢だった頃に抱いた「正しいこと」をする、「良い人」になりたいと思いが青臭く感じられたり、理想と現実は違うと説教を垂れたりする。
だから佳境に入った展開に我々は息を飲み、その後に訪れる優しさと温もりに満ちたシーンに激しく心を揺さぶられてしまいます。