かささた

よこがおのかささたのレビュー・感想・評価

よこがお(2019年製作の映画)
4.2
邦画を観る習慣のない僕ですが、年若い友人のすすめで観てきました。「体調が良いときを選んで観てくださいね」と註釈つきですすめられましたが、ちょうど風邪も治ったし、精神状態はいつでも安定しているのでさっそく観に行って来ました。
なかなかの傑作です。主演を筒井真理子という人がやっているのですが、この人ありきの映画です。この筒井真理子という人物の演技力や素の魅力が十全に生かされた映画じゃないでしょうか。

ところで、つい先日、何年か前に引っ越した前の職場の先輩がこちらに来てくれたので、久しぶりに会いに行きました。その先輩はちょっと特異なキャラクターの持ち主で、ギャグが弾けているというか、下ネタがどぎついというか、とにかく常軌を逸した面白さの持ち主なのですが、今、彼が働いている職場ではそのようなキャラクターは封印していて一切おもてに出していないということでした。「いやー君たちが下品だから、それに合わせて僕も下品を演じてるんだよ」そんなことを冗談混じりに先輩は言っていました。

僕らはいつも演技をしながら日常を生きている。そこまで極端には意識していませんが、周りの空気を読みながら、おもてに出して良い内面を選びながら、その場に応じたそれぞれの自分を生きているように僕は常々思っていました。例えば家族の前と職場では二面性とまでは言わなくても違った自分で生きているでしょう?

この映画に描かれているのはそうした日常にある、おとなしい平穏な自分から、全くそうではない違う自分がはみ出してしまう、その様子です。

この映画に描かれている、その違った自分を内面と呼んだり本質と呼んだり、あるいは狂気と呼ぶ人もいるかもしれません。僕はそれは意味づけ不可能な自分ではないか、というようなことを思いながら観ていました。動物や植物がそうするからそうするような、言葉による意味づけが不可能な人間の一面、それを筒井真理子はとてつもなく魅力的に演じきっています。
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