都部

FYRE: 夢に終わった史上最高のパーティーの都部のレビュー・感想・評価

3.5
インフルエンサーは決して悪ではないように思う。
人は信用に置ける人間の口コミを信頼しがちだし、そこに企業が目を付けて流行を操作することは何も今に始まったことではない。それが職種として名称を得たのは比較的最近のことであるけれど、SNSの影響がマーケティングにおいて重要である内はその立ち位置が揺らぐ事はないだろうし、人から人へ『流行り物』が広がっていく働きは大抵の場合は経済的によいことばかりである。損をする人などいない。
そう、大抵の場合は。

本作で語られるのは、そんな連鎖的な信頼があまりに大き過ぎる失敗を引き起こしたという実例である。

広告塔である不確かな個人:ビリーの発信を鵜呑みにして、信用した人間達が馬鹿を見ることになったという構図は、SNS上の誇大広告に踊らされる人々への改めての警鐘のようだ。

本作が面白いのは関係者はその世界最大のフェスが恐らく実現しない事を薄々察していたが、暴走する主催を食い止めることができずに、やがて視聴者が思い描く最悪の当日を迎えてしまうというしでかしの極地にある。

こち亀における両津勘吉の盛大な事業の失敗を、現実で目にするような感覚とでも言えようか。着々と最悪の選択肢が選ばれていく姿には『おい!マジか!』と言いたくなるような負の高揚感があり、SNS社会の曖昧模糊とした危険性を克明にしていく語り口はなかなか鋭い。

最悪の当日を迎えるシーンは本当に酷い。酷過ぎる。見切り発車で走り続けたことで辿り着いた惨状を、当日だからとそのまま観客にお出しするしかないというシチュエーションは失礼ながらかなり笑えるし、映像として残る観客達の反応がその絶望の大きさを雄弁に物語っていた。

主催者であるビリーの自身の高すぎた理想が作り上げた虚像に縋り続ける心理も理解できるが、あの手この手で事前の破綻を口から出任せで幸か不幸か防げてしまう姿は滑稽な詐欺師に相違ない。

作中で『奴は世界一のバカか天才かだ』とのように語られる場面があるが、資金繰りの面に関してだけ言えば後者だったが故に起きた悲劇とも取れる筆致なのが、こう何から何まで上手くいかなかった実感を共有させるそれで良かった。

『特別な人間になりたい』という虚栄心に対する適切な準備と距離感の教訓として価値のあるドキュメンタリーであると思うし、信頼すべきとされる情報があちこちで飛び交う現代において、何を信用するのかを改めて考える機会を与えるドキュメンタリー作品として評価したい。
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