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トロールズ ミュージック★パワーのLCのレビュー・感想・評価

3.9
面白かった。

前作で活躍したトロールたちの他にも、広い世界には異なるトロールたちが住んでいる。
彼らの交流は、それぞれの音楽性によって分断されたのだろうか。
たくさんのジャンルを抱える「音楽」に沿って進められるからこそ、わかりやすく楽しい物語となっている。

トロールたちが「みんなひとつになろう」「いやみんな違うんだから無理」と葛藤する様子が面白い。音楽だって、似たようなところがあるだろうかな。
ポップの女王とロックの女王は、服もメイクもリズムの乗り方もヘアスタイルも、全部違う。でも、「ポップはマジで最悪、繰り返しを多用してしかも頭に残るんだからな」という言葉にクスッとする。その特徴は、ロックも持っているんだもの。
ギターで短く、且つかっこいいメロディを繰り返す、そういうロックの名曲、多いよね。

もっと言えば、ロックだろうがポップだろうが、レゲトンだろうが、多くの音楽は、ある視点で眺めるとみんな同じものだったりする。
それは、「言葉を乗せることを大前提にしたリズムやメロディを持つ」という点。音楽界の揺るぎない一大勢力は、間違いなくこれだろう。女王自身が「歌詞がないなんてつまらん」と、クラシック音楽の者を煽る場面もあったね。
歌えない、その上、踊らずにじっと座って聞く、その印象が強いクラシック音楽を好んで聞く場面は、日常の中で頻繁に出会う景色ではなくなって久しい。
確かにポップもロックも違うんだけれど、どっちも楽しいし、全く別物ってわけでもない。お互いの存在を許容して、時には融合できたりしたら、それって距離をとって溝を作って敵対して潰し合うよりずっと素敵。
ロックバンドのメンバーにバイオリニスト、みたいな光景、珍しくなくなったものね。
そういうことを、それぞれに異なるトロールたち自身も見せていってくれる。「想像もつかないくらい我々とは違った奴らなんだ」と言うけれど、リズムがひとつ響けば、それに乗れる奴らでもあったね。

相手を落ち着かせるマッサージのようなもので、目玉を直接触っていることに笑ってしまった。目の周りのマッサージは確かに力抜けたりするけれど、目玉触られるのは怖いなあ、わしなら。
トロールの赤子が生まれる瞬間も面白かった。そこからその勢いで生まれて、いきなりそこまで流暢に話すんか。親の中に居る時に、栄養素だけではなく、物凄い量の情報を授かれるのかな。
生む側に痛みや苦しみがなさそうに見えたんだけれど、それは本当にラッキーだよね、素敵。生む者の痛みを出来る限り取り除くのって、人は四苦八苦しながら今も発展させていってるから。どこぞの島国は積極的にその波に乗らないスタイルを貫いていると聞くけれども。今はその話題は、いいか。

育った地を出て世界を旅する者が好き。広い世界をなるべく肌で感じる経験は、かけがえのないものになるよね。将来の就活に有利とか、そういう次元ではない、かけがえのなさ。
みんな違って、だけどみんな同じで、そんな中で何となく居心地の良い場所が見つかって、気付いたらもう随分とそこで暮らしていた。そんな経験。狭い世界を飛び出した者だけが得られる知見。
ポップで育ったけど、違う音楽もぼくを構成しているんだ。
「勝った者たちの歴史と敗れた者たちの歴史」を見せてくれるところも好き。
教科書や有名な本にも載らない、誰にも届かない声は、だからこそ拾い上げる価値がある。何とか消されないように気を付けながら、語り継いでいく価値が。
誰にも届かない声から、文化は生まれていく。音楽もそう。作中でも言っているけれど、音楽と文化は切り離せないよね。
それはつまり、かつて何者かが懸命に生きた証であって、今自分たちが生きている証でもあるから。

ひとつになるために、みんな同じになる必要はない。
違う者たちが集まって、お互いを許容しながら自分のことも恥じずに表現していく。そういう結び付き方が、より多くの仲間を獲得することに繋がるし、仲間が多くなれば束ねられる力も増す。
全体が赤なら自分もお前も赤になるべし、という在り方は、これまでにも選択する例があったし、今も場所によっては根付いていたりする。
でも、音楽は自由だもの。時には君の心を解き放ち、時には悲しみに寄り添い、時には共に思いっきり弾ける、そんな存在。
ひとつの色に決めなくてもいいし、無理にたくさんの色を取り込もうとしなくてもいい。君が君で在ることが、わしがわしで在ることや、それぞれの音楽が在ることを肯定していくし、あたたかく繋がっていく。
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