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イン・ザ・ハイツのsomaddesignのレビュー・感想・評価

イン・ザ・ハイツ(2021年製作の映画)
5.0
新しいけどクラシカル
正調ハリウッドミュージカルの古典にして最新形を見た感じ

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変わりゆくニューヨークの片隅に取り残された街ワシントンハイツ。祖国を遠く離れた人々が多く暮らすこの街は、いつも歌とダンスであふれている。そこで育ったウスナビ、ヴァネッサ、ニーナ、ベニーの4人の若者たちは、それぞれ厳しい現実に直面しながらも夢を追っていた。真夏に起きた大停電の夜、彼ら4人の運命は大きく動き出す。
ミュージカル「ハミルトン」でも注目を集めるリン=マニュエル・ミランダによるブロードウェイミュージカルで、トニー賞4冠とグラミー賞最優秀ミュージカルアルバム賞を受賞した「イン・ザ・ハイツ」を映画化。

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ミュージカル映画であること以外、予備知識ゼロで鑑賞。
思った以上に歌って踊ってお腹いっぱい。
心象風景を歌にするだけじゃなくて、日常的な会話もラップや歌になってて愉快。数あるミュージカル映画の中でも、ラップがこんなに歌われるのは初めてかも(ミュージカル全く詳しくないので比較しようがないけど)。
ラテン音楽が中心とはいえ、ジャンルレスな音楽の扱われ方がとても現代的。ヒップホップもメレンゲもサルサもレゲトンも垣根なく親しまれてる感じ。
劇中描かれるドミニカ・プエルトリコ・キューバetc……ルーツは別でも、同じワシントンハイツの住民として肩寄せあって生きてる暗喩でもある。

監督は「クレイジー・リッチ」で一躍名を馳せたジョン・M・チュウ。中国と台湾にルーツを持つ監督が、アメリカで中南米系移民のミュージカルを撮る。超マルチリンガルっていうのか、人種の坩堝っぷりがニューヨークらしい。

近年アメリカの両岸を中心に世界的にも問題となりつつある、地価の高騰と再開発の波も下敷きにあって「ジェントフリィケーション」と呼ばれる現象。地域住民の階層の上位化によって、それまで住んでた住民が行き場を無くしてしまう。町山さんによれば、住民だけじゃなくてギャングやマフィアまで家賃に困って逃げ出すほど、ハイスピードで住民の入れ替えが進んでしまっているんだとか。

群像劇だけど、主たる4人の若者に焦点を絞って夢と居場所の物語にしてる。
ささやかな幸せと大きな夢の対比もいいし、過酷なラテンコミュニティの現実も垣間見える。4人ともいわゆる「ドリーマー」で、幼少期に親に連れられアメリカに不法入国したorアメリカで生まれた人なのも共通してる。オバマ政権までは一時的な滞在資格を与えられてたけど、トランプさんはこれを剥奪しようとして……(以下略)。 ドリーマー4人が見る夢の話で、自分たちのルーツやアイデンティティ、居場所を見つける物語に見えた。

ミュージカル弱者の自分でも楽しめたのは、超大作ならではの巨大セットのおかげかも。グルリと世界が転回するシーン、メイキング見ると建物ごと回転させてる! CG全盛の時代に、昔懐かしい大型セットをグルグル回して撮影するからこその説得力が楽しい。長期間のダンスレッスンを経た
カメラワークの魔法は映画ならでわの楽しさ。特にプールのシーンが大好き。撮影の間プール入りっぱなしだったはずで、ダンサーさん達お腹壊したり唇真っ青になったりしてそう。プロってすげえ。自分ならうっかり自分の周りだけ茶色く染めてしまいそう🤢


以下オチバレ有)
「足元を掘れ、そこに泉あり」とはニーチェだったっけ。ここではない何処かへの憧れより、今いる場所を理想の場所と思えるようにしようって着地は、目新しさはないものの、普遍的で「まあそう落とすしかないよね」。延々と運命の場所を探すよりは、よっぽど誠実で正直な態度に見えた。場所や境遇はそれぞれだけど、今いるトコを逃げ出すと次のトコでも結局逃げるハメになる。逃げるのは大事だけど、ずっと逃げ続けるわけにもいかないしね。

余談)
かき氷売りのおっさんがやたらフィーチャーされると思ったら、演じてるのはリン=マニュエル・ミランダ。元になったミュージカルの原作者であり、今作の脚本家・プロデューサーにも名を連ねている生みの親。出たがりー!
そもそも俳優さんでもあるので、映画「メリー・ポピンズ リターンズ」でガス灯おじさん役が印象深い。ミュージカル版は主人公・ウスナビを主演してたそう。映画版だとアンソニー・ラモスに若返った分、主人公の焦燥感が増した見えた。


46本目
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