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劇場版 ガンダム Gのレコンギスタ I 行け!コア・ファイターのykobのレビュー・感想・評価

4.5
10年代のオタクはコンテクストを読む力を失ったという説がありますが、個人的にはそのことを初めて体感させられた作品、の劇場版であり再編集版。テレビ版からずっと各所の評価では「ちゃんと見ればわかる」「わからない」の口喧嘩がずっと繰り広げられており、とくに「わからない」=「つまらない」と即断してしまう人が多いのだと思い知らされます。

しかし果たして昔のオタクが本当に「わからないこと」を真正面から享受できていたのかどうかはわかりません。私自身もいつのまにか老害になって、昔はよかった論を振りかざすようになってしまったのかという自戒の気持ちも生まれました。逆に、アオイホノオのような回顧録を観ると過去のオタクたちは必死に文脈を読むように努めているし、1stガンダムもイデオンも別にわかりやすくなかったけど今でも語り継がれるほどコンテンツの強度はあったよなと思うと、オタクはコンテクストを読む力を失ったというのは本当で、単にこの作品が時代を読み違えただけかもしれないとも思います。

さて劇場版1ですが、テレビ版より遥かに理解がしやすくなっていると誰しもが口にするほど露骨に情報が追加されており、私にはそれが逆に媚びているようにも思えました。主要な人物であるベルリとアイーダの内面性が特にそれですが、アイーダは高潔で有能に見えてわりと未成熟なキャラクターなのだけどテレビ版ではそれが徐々に明らかになっていくのに対して、劇場版ではそれがすぐわかってしまう。人間の内面性がそんなに簡単に周囲に露呈するはずがないので、私にはその点ではテレビ版のほうが好みでした。

ガンダムに限らず富野作品は作品ごとの主人公がその時代の若者の性格をシンプルに反映していると言われますが、本作品の主人公であるベルリは努力家でモラルがあり、カオスな状況を乗り切ろうとする胆力と柔軟性を備えた超優等生です。家柄にも恵まれています。個人的には大谷翔平や錦織圭を想起させ、ある意味現代的だなと感じます。

こんな無敵な主人公が、無敵な高性能マシンに乗って、欲深い周辺の人間を蹂躙していくのがテレビ版のGレコでした。なので私はどうしてもベルリの最大のライバルであるマスクに感情移入してしまいます。生まれが卑しくて権力に対しての嫌悪感が強い、自身の努力だけで成り上がりを狙うマスクは、テレビ版ではその野望をギリギリのところで打破されてしまって最後には諦めにも似た達観した姿を見せていましたが、劇場版ではそれも肉付けされて見せてくれるのでしょうか。私には今からそれが楽しみでなりません。
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