古典中の古典。凡そ100年前とは思えない完成されたディストピア観。自分が崇拝する『ブレードランナー』も本作がなかったら存在していないだろう事を踏まえると、あまりにも偉大な作品。
その凄さは、単に設定を発明したというSFにおける金字塔的な役割だけではなく、今見ても洗練された美術やショットにある。寧ろ今あんなに神がかった映像はお目にかかることが無いだろう。エキストラを大量に使用した人海戦術的なキャスティングによって、フリッツ・ラングが創造するディストピア世界-メトロポリス-にリアリズムが寄与されるし、それによって画面の強度はてっぺんを超え、大勢の子供たちの手とマリアのショットなんかは宗教画を想起させるような強烈なインパクトがある。マリアを捉えるクローズアップのショットも映画史におけるモナ・リザとも形容できる奇跡的な美しさ。
社会格差を風刺し、資本主義と共産主義の対立を描いた上でのラストは意外と平和ボケしてるなぁって感じだったけど、それは共同脚本家で妻のテア・フォン・ハルボウが当時ナチスに傾倒していたからあのラストになったらしい。フリッツ・ラング自身は労働者が勝つラストを推してたらしいけど。WW2前だというのもあると思う。それだけでなく、集団心理の怖さを描いた点は後年の『M』に通ずる。