持て余す

サバハの持て余すのレビュー・感想・評価

サバハ(2019年製作の映画)
3.6
韓国産伝奇ミステリ。

個人的な好みもあるのだけど、ミステリ的な手法と伝奇的な物語は分離しやすくて、伝奇ミステリってあんまり感心しない。ネットで調べると「伝奇」とはこうある。─現実には起こりそうにない、不思議な話。 また、そのような話を題材とした、幻想的で怪奇な物語や小説。

ミステリは物語の終盤で現実として納得できるようなかたちで説明がなされる。そこが醍醐味のひとつなのだけど、伝奇要素はこれを阻むことになる。小説ならば初期の西澤保彦だったり山口雅也の諸作のように、前半で物語中の現実との違いを説明することで却って自由度を上げているものも見るけれど、ホラー要素を含んだ伝奇ものの場合に、その説明は少しばかり都合が悪いように感じる。

だから、こういう物語でまだ全容が判っていない時の捜査シーンは少しばかり馬鹿馬鹿しく感じてしまう。真面目に調べたって、どうせこの世ならぬ者がやったのだから意味がないように感じるのだ。更に言えば、そういう存在がいる世界ならば、念力や呪いで殺したり、誰かを操って殺させたり、直接殺したりとか、やりたい放題だと思う。それに、全人類を殺そうとしているような化け物が一見人間でもできそうなくらいのちまちましたことをしていたりすると、やや醒める。

それを避けるためには、その異形の存在にも限界があることを説明する必要があるけど、それをしてしまうと敵のサイズ感が小さくなってしまう。この辺りの匙加減はとても難しいと思うし、成功作はそれほど多くないとも思う。

この『サバハ』でもそういうところがないではなけれど、序盤から宗教的な要素でグイグイいくから文法的には割と親切だと思う。ただ、前提となる知識の問題なのか、説明が足らずに困惑するところも多い。韓国では日本と比べてキリスト教が身近で、それがいいことばかりでもない……らしいのは、韓国産の物語に触れていると端々に見える。

だから、この物語が難解なのか、単純に説明が足りていないのか、前提となる知識があればそれほど複雑でもないのかは、いまいち判らない。まあ、テンポ良く展開していくので、解らないながらも結構楽しめる。


ところで、牧師役のイ・ジョンジェは『イカ・ゲーム』で大ブレイクすることと思うけど、この映画との雰囲気の違いがすごい。『サバハ』では清潔感のあるシュッとした人物なのに、は『イカ・ゲーム』ではダラシない生活を送る冴えない男で、両方とも違和感がなかった。今後の作品も楽しみ。
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