浦切三語

二ノ国の浦切三語のレビュー・感想・評価

二ノ国(2019年製作の映画)
1.8
永野芽郁の声優演技がド下手くそ過ぎるとか、主人公の片割れが「クスリでキマっているのか」ってくらいバカ過ぎて全然話が進まないとか、物語に絡まない設定が後付けでドカドカ降ってくるとか、一ノ国とニノ国とを行き来するたびに話が止まるヘッタクソな脚本とか、ラストの超説明台詞の連発とか、クソ映画としての要素はたんまりとあります。

ですが、この映画の最大の問題点は「ニノ国で勃発する政治的闘争や武力衝突に端を発する物語が、主人公たちの解決すべき個人的問題と、なんっっっっっっっっっの関係もない」ということにあります。

助けるべきはずのコトナが比較的序盤であっさりと回復してピンピンしてしまった以上、主人公たちの当初の目的はここですでに達成されているわけですから、新たにストーリープロブレム、つまり物語上の解決すべき課題を設定し直す必要があります。「元の世界への帰り方を見つける」でも「王国を救う」でも何でもいいんですが、なんとこの映画は、一度問題が解決したはずのコトナの問題を、一ノ国との命の繋がりとやらを設定して、また蒸し返しています。この「一度解決した物語上の課題を再び蒸し返す」というやり方、一昨年あたりに「監督が二億円近い借金を背負って制作した」でお馴染みの超絶クソアニメ映画『君は彼方』とまったく同じ作りになっていてびっくりしました。クソなアニメ、クソな脚本の指標に「解決した課題を再び蒸し返す」という要素が、もしかするとあるのかもしれません。

それはそれとして、二ノ国で巻き起こる問題事が、どこまでいっても主人公たちからしてみれば「他人事」でしかないというのが、この映画が多くの人たちから批判されている最たる要因なのかもしれません。「好きな人の命を助ける」というその個人的な動機が、二ノ国が抱えている後ろ暗い戦争の歴史と、なーんの絡みもない。キャラクター個人の成長に関係する課題と、ストーリーを進めていく中で解決すべき問題が完全に乖離しているので、これじゃあ話がしっちゃかめっちゃかになるのも致し方ない。

なので、こういうのはどうでしょう。ハルとユウは兄弟のように育った関係性という設定はそのままに、障碍者のユウをハルがどことなく見下している描写を挟み、そこでニノ国へ飛ぶ。コトナ=姫様の命を救う手立てをいっしょに考えるために、まずは傭兵からでも訓練兵からでも何でも良いですが、兵士として国に仕えることを決める。その中で訓練を積み、重臣たちとの人間関係を育んでいく中で、元の世界では障碍者だったユウがどんどん剣術の才能を開花させていく。逆に、元の世界ではスポーツ万能だったハルはからっきしでどんどん落ちぶれていって、ユウに対する嫉妬と自分に対するふがいなさで、どんどん自信を無くしていく。

そこでハルに声をかけるのが、ニノ国の王様だとしましょう。あの王様には実の兄がいたという設定ですから、その兄を優秀な王だったということにして、「ワシにもお前の気持ちが分かるよ」とかなんとかハルに語って聞かせる。つまりですね、実の兄弟である王様と亡き兄王、そして実の兄弟のように育ったハルとユウを並列に置いて対比描写していくわけです。すると、ハルとユウの関係性が王様と亡き兄王の関係性にリンクしていき、結果的に違和感なく世界観の説明や、あの伝説のナンタラとかいう剣の設定だって話せると思うし、ハルも王様に対して感情移入して、自分事のようにニノ国の問題を意識できると思うんです。

で、なにかの拍子にハルが伝説の剣が実はハリボテだったということに気付くとしましょう。その現場を、あの妖術師に見つかって秘密裏に殺されそうになるけど、王様がなんとかかばい立てして国外追放だけで処分される。そこで、あてどなく世界を放浪していた時に、たまたま敵方に捕まり、利用価値があるとみた敵方にニノ国と一ノ国の命の繋がりに関するデマを吹き込まれるかして、暗黒面に堕ちてしまう。

ハルが国外追放される時、ユウはハルの味方にはなりません。ユウはユウで、元の世界であれだけ運動神経バツグンだったハルが、ニノ国ではからっきしで落ちこぼれになっていく様に失望にも似た怒りを抱いて、足が自由に動けるというのもあいまって、つい見下すようなことをハルに言ってしまう。そのことがユウのなかで罪悪感として残る。だからハルが敵方の手に堕ちてしまったとき、自分にも原因があるという責任感を感じて、彼を止めに行く。「異世界から来た勇者だから」という、そんなどーでもいい設定は使いません。ユウの人間的成長を描くのだから、ここはユウに「暗黒面に堕ちたハルを止めに行く」自発的な動機を作りださなければなりません。

で、なんやかんやとあって双方の誤解が解け、真の敵を協力して倒す。ラストについては賛否両論あるみたいですが、私はユウが二ノ国に残っても良いと思います。ここは『アバター』と同じ理屈ですね。ただし「ハルとユウは同一人物」とかなんとかふざけた設定はもちろん捨てて、ユウを一人の人間として描いたうえでの話ですが。

え?お姫様?そりゃあ最後まで眠ってもらいますよ。声優演技下手くそなんだもん。
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