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窮鼠はチーズの夢を見るのうさぎのネタバレレビュー・内容・結末

窮鼠はチーズの夢を見る(2020年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

人と人が見つめ合い、愛し合い、想い合う
ラブストーリー。
そこには男女問わず、美しくも儚い、愛のかたちがあった。

「ずっと好きでした」
その言葉通りずっと想い続けた純粋な気持ちが、振り向いてもらえたときには最高に幸せなはずなのに、人間はそううまく、器用には生きられない。
そこからは不安との戦いで
ずっと一緒にいたい、別れたくない
でも飽きられてしまうのが怖い。
そんなどうしようもない不安と恐怖、独占欲や嫉妬に葛藤し続け、幸せが苦しみになる矛盾を覚える。

この映画では人の感情がどれだけ脆く、
そして愚かなものか思い知らされる。

大倉くん演じる大伴
流され侍と呼ばれるほど、来るもの拒まず去るもの追わずで受け身体勢、どこか薄情な印象だが
そんな大伴は成田凌くん演じる今ヶ瀬との再会から自らの揺れ動く心とぶつかりながら生きていくことになる。
大倉くんのクズっぷりも含めた、冷たくも優しい、繊細な芝居が素敵でした。
大伴が一人でゲイバーに行き、自身にとって今ヶ瀬は唯一の存在になっていることと同時に気付く愛の深さがとてつもなく切ない。

今作での成田凌くんの芝居は本当に美しかった。
その佇まい、目線、タバコを吸う指先までの仕草、あらゆる点での今ヶ瀬としての存在の仕方が完璧。
特に瞳は、常にどこか不安げで、大伴への愛に溢れていて、なんともいえない美しさがあった。
大伴、今ヶ瀬、夏生とのご飯屋さんでのシーンで、大伴からの残酷な言葉を受けたときの全てを押し殺したような表情は胸を締め付けられたし、カールスバーグのくだりは印象的だった。
今ヶ瀬にとって、大伴は愛さずにはいられなくて、どうしても例外になってしまう存在だった。

そして大好きな咲妃みゆちゃん。
序盤に出演シーンは終わってしまったものの、圧倒的存在感を残したと思う。
ゆうみちゃん演じる知佳子が発した「気持ち悪い」は度肝を抜かれた言葉だったし、その涙はとても重かった。


「愛しすぎると自分が保てなくなる」というのは今ヶ瀬はもちろん大伴にも当てはまっていたし、
「心底惚れるとはすべてにおいてその人だけが例外になること」というのもそれに気づく時間に差はあったものの2人の生き様が物語っていた。

今ヶ瀬は純粋に人を愛することの美しさとそれ故沸き出る己の独占欲からの葛藤を、
大伴は人を愛していく過程を見せてくれた。
複雑な感情をリアルに、繊細に、狂おしく、描いた全てのキャスト・スタッフに敬意を表したい。

一番に愛する人と共に生きることは
とてつもなく難しいことなんだと思う。
一生に一度だと思える人に出会い、胸が苦しくなるほど誰かを愛する人生でありたいと願う。

優しさを持って
そして愛することで孤独になった2人が、
またどこかで重なる未来がありますように。
うさぎ

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