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窮鼠はチーズの夢を見るのChipのレビュー・感想・評価

窮鼠はチーズの夢を見る(2020年製作の映画)
4.0
長い映画だった。
そのぶん、
「あ、きっと幸せなままでは終わらないんだな。この後何かがあるんだろうな」という予感をちゃんと拾ってくれた。

大伴先輩は流されやすくて弱くて冷たいクズだけど、見た目が美しくて優しいから人は惹かれてしまうのかな。

成田凌さんは演技が本当に上手い。
今回の役も好き。
今ヶ瀬が大伴先輩に向ける視線が切なくてひたむき。
傷つきたくないから言わない気持ちがきっと山ほどある中で、
ここぞというところでポロッと言う言葉が、とにかく切ない。

そして今ヶ瀬の27歳の誕生日、
大伴先輩がプレゼントしてくれたワインを抱きしめるシーンが印象的。

「これは開けない。開けたら無くなっちゃう」と言う今ヶ瀬に、「なら来年またプレゼントするから」と言う大伴先輩。
大伴先輩にとっては約束でも何でもない、何気ない言葉だったのだろうけど、今ヶ瀬にとっては何より嬉しい言葉だったのだろうと思う。未来を期待しちゃうよね。涙ぐんでワインを抱きしめる姿が健気で切ない。

大伴先輩に女性の影が見えて口論になったとき、「僕にはあなたじゃダメだ」と言ってしまった今ヶ瀬の、苦しそうな姿が辛かった。

好きになった大伴先輩がクズなことは分かっているけど初めて会った時からどうしても好きで、
多くは望まない、そばにいられればそれで良いと思っていても、信じることができないのはすごく苦しい。
そうして別れて、忘れられなくて、半年に一度会うだけでもいいから繋がっていたい。
そんな今ヶ瀬のひたむきな気持ちが愛おしい。

表情だけで演じる成田凌さんがとてもとてもよかった。

「好きになりすぎると自分自身の形を保てなくなって壊れてしまう」か。

ラスト、今ヶ瀬が捨てて行った灰皿を綺麗に洗って、椅子に座って待つ大伴先輩。
今ヶ瀬は戻ってくるのかな。幸せになって欲しいな。
Chip

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