りっく

フォードvsフェラーリのりっくのレビュー・感想・評価

フォードvsフェラーリ(2019年製作の映画)
4.4
本作はフォードとフェラーリという自動車産業の雌雄を掛けたアメリカ対ヨーロッパという構図はありつつ、それ以上にフォードの創設者の二世とその取り巻きが牛耳るタテ割り組織の中で、どのように立ち振る舞い、自分の主張を押し通し、折り合いをつけるかという組織論になっているところが抜群に面白い。

本作の主演はもちろんクリスチャンベール演じるレーサーであり、外見の寄せ具合含めて最高の演技を見せている。だが、本来は主人公のサポート役に回るマットデイモンのキャラクターにも作品全体の調整役を担わせることで、スポーツ映画としても男2人の友情ドラマとしてもステレオタイプに陥ることを易々と免れ、深い感動と余韻を残すマンゴールド作品ならではのアメリカ映画へと昇華してみせる。

また爆音を轟かせるエンジン音を演出として見事に利用しているのも巧い。もちろんレーシング場面の圧倒的な迫力と畳み掛ける編集はエンターテインメントとして最高峰なうえに、例えばフォードの副社長に妨害されそうになるのを事務所に閉じ込めてエンジン音で声をかき消すのと並行して、フォードの社長をレーシングカーという閉鎖的空間の助手席に強制的に乗車させ、エンジン音の唸りや震えを実際に体感させることで常人ではとても扱い切れない事実を実感させる場面は名シーンだ。

またフォード側の人間を単なる悪として描かないバランス感覚も好感が持てる。低迷するフォードとしてもある意味で賭けであり、だからこそ広告塔としてイメージアップを最優先に考える企業の論理も納得できるからこそ、最後の決断に至るまでのクリスチャンベールの横顔に泣かされる。男として、夫として、父親として、そして相棒として。人はこんなにも成長できるのかと心震わせられる。
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