世界中に多くのファンを持つBeatlesの楽曲をテーマにしたファンタジィ・コメディ。
ビートルマニアの存在は恐ろしく熱いので、作品の出来如何によっては総スカンを喰ってしまいそうな題材をよく勇気をもって取り上げたと思います。
そして、辛口のビートルマニアもこの作品には好意的な印象を持ったのじゃないだろうかと思います。
ある日、全世界が12秒間停電する。
その12秒の間にミュージシャンを目指していたジャックは交通事故に遭う。
そして彼が意識を取り戻した世界は、自分以外は誰もBeatlesを知らない世界だった・・・
主人公のジャックは、世間が知らないビートルズの楽曲を次々と発表して有名になっていくのですが、その楽曲の使い方がうまいですよね。
特にルーフトップコンサートを意識したであろうホテルの屋上で熱唱する“Help”は主人公の焦燥感と作者のジョン・レノンのそれがリンクしていて上手いと思いました。
ジャックが吹き替えではなく自分でビートルズの歌を唄っているのもいい。
両親に“Let it be”を聴かせようとしても、なかなか聴いてもらえないところなど笑えるし、一流ミュージシャンのエド・シーランに、「君はモーツァルトで僕はサリエリだよ」なんて言わせてしまうセリフも楽しい。
ジャックを演じたヒメーシュ・パテルは本当に上手く歌いこなしており、演奏シーンやライブシーンなどはもっと聴いていたいなと思わせるほど。
タイムトリップものやパラレルワールドものは、個人的には絵空事臭が強すぎていつも評価が厳しくなるのですが、本作はいいですね。
物語を無理やり現実に戻すことなく、ファンタジーのまま終わらせるのがいい。
多くの人がBeatlesの存在を知らない中、わずかに存在を覚えている人物が登場するのもいいですね。
彼らはビートルズの楽曲を後世に伝えてくれてありがとうと言うのです。
ここはグッときました。
そして、船乗りとの出会い。
このシーンは驚いた。
ジャックには売れないときから自分を支えてくれたエリーという彼女がいるんですが、その二人の恋愛関係も爽やかですね。
共感できる等身大の恋人たちの魅力は、『ノッティング・ヒルの恋人』（1999）や『ブリジット・ジョーンズの日記』（2001）を手掛けたリチャード・カーティスの脚本によるものも大きいだろう。
そして原曲であるBeatlesの楽曲の素晴らしさ。
それらに対するオマージュにもなっていて作り手側の良心を感じます。
ファンの間では賛否の別れる楽曲“Ob-La-Di, Ob-La-Da”があんな使われ方をするとはね。このシーンだけでも拍手喝采ですよ。
細かいところにBeatlesネタが仕込まれているので、彼らのことをよく知っている人にはより楽しめる作りになっていますね。
Beatlesファンの人もそうでない人もおススメします。
爽やかな後味のいい作品だと思います。
