回想シーンでご飯3杯いける

イエスタデイの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

イエスタデイ(2019年製作の映画)
2.2
自分以外の地球人全員からビートルズの記憶が消えてしまう。実在のバンドを題材にしながらフィクション作品に落とし込むユニークな発想は、予告編の段階から凄く興味があった。

アマチュア・ミュージシャンである主人公が友人の前で「イエスタデイ」を弾き語りをしても「お前いい曲作るね」というリアクション。「Beatles」でググってもカブトムシの情報しか出てこない。「Rolling Stones」でググればストーンズの情報が出てくるけど、「Oasis」も全然ヒットしない(つまりビートルズがいなければオアシスも生まれていない)。この辺りの流れが最高に面白かった。っていうか冒頭15分のこの辺りがピーク笑 

他の地球人がビートルズを知らない事を良い事に主人公が自分の曲として売り出すのは良いとして、それを聞いた人達が「良い曲だ」といきなり絶賛する下りに物凄い違和感を感じてしまった。ビートルズって曲の良さだけで人気者になったんだっけ?

「僕達は一晩で人気者になったわけじゃない」とポール・マッカトニーがインタビューで答えていた。「お揃いのスーツを着たのがブレイクのきっかけ」とも。彼らの人気は、時代のニーズを捉え、同時にその裏をかき、ビジュアルやキャラクター性を含めた戦略で勝ち取ったものなのだと僕は理解している。今彼らの曲を聞いて良いと思えるのは、そうした試行錯誤のドラマを含めた彼らの偉業を既に知っているからなのだ。

本作の主人公が歌うビートルズの曲は正直魅力に乏しいし、21世紀のニーズに応えているようにも思えない。レコード会社の戦略会議でビジュアルやCDジャケットの事ばかりが議論されるシーンを本作は悪意的に描写しているけど、そうした戦略的な部分もビートルズの重要な側面だったはずなのだ。

全体的に脚本を担当したリチャード・カーティスのテイストが強く、ビートルズの音楽を添え物にしたラブコメと言った趣き。彼自身もビートルズのドキュメンタリーに出演するほどのマニアであったはずだけれど、本作ではそうした部分でのこだわりはあまり感じなかった。

↓↓ここから下、若干のネタバレです。

本作は、言わば「ドラえもん」の「もしもボックス」と同タイプのコメディなのだと思う。「もしもボックス」の場合は、調子に乗ったのび太にしっぺ返しが来るというのが王道のパターンなのに、本作はそれもなく、ソックリさんも登場して(死人に口無しである事を良い事に、、、、ボヘミアン・ラプソディもそうだけど、はっきり言って不愉快!)、ただただ「ビートルズの音楽は素晴らしい」を繰り返すばかり。これは広告がやる事であって、映画の役目では無いと思う。ビートルズ愛だとか音楽愛と呼んで良いものかと、少し複雑な気持ちになってしまった。

※同じ「イエスタデイ」なら、2016年に公開されたノルウェー映画の方が好きです。