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サイダーのように言葉が湧き上がるのsomaddesignのレビュー・感想・評価

5.0
おくすりたくさん
治る頃にはまた病気

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俳句以外では思ったことをなかなか口に出せない少年チェリーは、ヘッドホンで外部との接触を遮断して生きている。ある日彼は、見た目のコンプレックスをマスクで隠す少女スマイルとショッピングモールで出会い、SNSを通じて少しずつ言葉を交わすように。そんな中、バイト先で出会った老人フジヤマが思い出のレコードを探し回る理由を知った2人は、フジヤマの願いをかなえるためレコード探しを手伝うことに。

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七五調なので正しくは
サイダーの
ように言葉が
あふれだす
サイダーは夏の季語になるのか。学びが多い。

劇伴・劇中歌が良過ぎて、鑑賞後すぐにサントラ買った。
これは牛尾憲輔に違いないと思ったらやっぱり!甘く透明感のある極上のエレクトロ。7インチレコードみたいなジャケット含めてサイコーなので、フィジカルで手に入れる満足感ある。

フライングドッグ設立10周年記念作品。
不勉強にもフライングドッグがよく分かってない。アニメや関連作品の音源や映像ソフトのレーベル。音楽や映像の専門レーベルなせいか、どちらもしこたま良かった。

永井博か鈴木英人、またはわたせせいぞうといった、70〜80年代のシティポップを彷彿とさせる描線・カラーリング。実際には存在しないアメリカ西海岸の風景と同じく、日本の架空の町を舞台にしたボーイミーツガール。ある種の憧れとも郷愁でもある世界線が新しい世代の息吹を吸って、また違うポップさで甦ったよう。

「ハイ・フィディリティ」以来のレコード映画でもあって、数々の名盤・音楽小ネタも満載。大貫妙子の名盤「SUN SHOWER」をチラリと見せてからの、あの劇中歌。ご本人登場パターンをアニメで見た気分。
ネバヤンの主題歌も良かった。気だるい夏の暑さと青春の煌めきを、徒然に書き残したよう。昔懐かしいシティポップな世界観に浸るばっかりじゃない、新世代の音楽と言葉の物語としても楽しめた。
主人公たちがレコードに馴染みの薄い世代なので、ベタベタと盤面触るのでドキドキする。劇中「そんな扱いしちゃダメだって、おい、やめ……ほらいわんこっちゃない」ってレコードの取り扱いだけでハラハラするシーンがあって、自分が口うるさい年寄りになった気分。いや主人公たちからすれば十分ジジイなハズで、自分自身の老いっぷりを自覚させられる始末。

ネットとの距離感もリアルで良かった。もちろん人にもよるだろうけど、スマホとセットで欠かせないツールではあるものの、あくまでツール。ついつい触っちゃう程度。ネットの向こう側にいる人も普通の人が多くて、匿名であっても誹謗中傷や暗部は描かれない。ネガティブな部分はあっても、それはリアルでも同じでしょ程度の扱いが良かった。同じ日に見た「竜とそばかす」と比べると、あっちはまるでネットに繋がる人全員が四六時中アクセスしてるみたい。

欲を言えば、コンプレックスを乗り越えるのがもっと自発的であって欲しかった。他人に認められて乗り越えるんじゃなくて、自身でチャームポイントと思えるようになる成長が描かれない。17歳のリアリティを考えれば、他人からの評価で自信が持てる設定の方がリアルかもしれないけど。
あと、クライマックスの落書きがノイズになっちゃった。軽微とはいえ登場人物たちがカジュアルに法を犯すので、イマイチ乗り切れない部分もある。今時「若気の至り」で許されない事も多いんだし、あとでちゃんと消せよ! さらに、突然のYAMAZAKURA音頭。事情を知らないお祭りのお客さんポカーンとしちゃうよ。お祭りの私物化が酷くて、盆踊りを楽しみに来てる他のお客さんが気になっちゃって、手放しでロマンスを祝福しにくかった。

44本目
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