KnightsofOdessa

スキャンダルのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

スキャンダル(2019年製作の映画)
1.5
[一言で言えば"しっちゃかめっちゃか"] 30点

レズビアンで左なのにFOXしか受からなかったから隠して働いているというケイト・マッキノン、及びメーガンの旦那役で我々に癒やしを与えてくれるマーク・デュプラスが光輝いているのを観るだけでも収穫とも言えるが、残りは凡庸。本作品の二大特徴である臨場感あるカット割りと第四の壁破壊であるが、前者では"リアリズム"が撮りたいのか雑なズームを呆れるほど多用し、『ハウス・オブ・カード』に似せすぎた後者はただの解説に徹してしまう。例えば"二階とはロジャーの部屋を指します"なんていう解説をしてくれるのだが、それくらいのことは面倒くさがらずに映像でちゃちゃっと説明すりゃいいのに、自信がないのか(映画及び観客を)信頼していないのか知らんが"解説"してくるのには腹が立つ。第四の壁破壊にしたって『ハウス・オブ・カード』のそれが持っていた激烈なブラックさとシュールさ、そして軽妙さはどれも繊細かつ切実な問題である本作品のテーマとは明らかにミスマッチで軽すぎる。だからこそ、問題が切実になるとあからさまにトーンダウンしてしまって、序盤とのミスマッチも気になってしまう。

難しすぎる業界用語と大量の関連人物をシンプルに捌ききれていないのは、この手のスクリプト系映画で一番に解決すべき問題なのに、本作品では逆に茨の道に突っ込んでいっているようにすら見えてくる。勿論、現実は簡単に語れるほどシンプルでないのは重々承知だが、それを109分でまとめるなら何かを切り捨てる覚悟はしなければならない。本作品における明白な失敗は、グレッチェンではなくメーガンを中心に置いたことだろう。それによって、セクハラ告発事件の裏で進行するトランプ批判のような文脈を持った共和党の討論大会(訳語忘れた)が、本筋から浮きまくっているのだ。"Bombshell"という題名からもセクハラ告発が主軸になっていることは明白だが、直接は関連しないサブプロットを大量投入しているせいで確実に発散している。

終盤にかけてエイルズだけを典型的なヴィランに仕立て上げて、マードック一家や他の男性アンカーのミソジニー的視点は排除されてしまうのも不思議だ。オライリーに関してはエイルズと同時に解雇されているのにやってるっぽいということしか触れないし、それも他の男性アンカーと同レベルなので正直なぜ彼だけが解雇されたのか理解できない。映画は何も解決できていないことを示さないまま、敵を倒してハッピーエンドのようになってしまう。そして、ミクロな視点から離れられないまま無理に一般化しようとしていて、これじゃあ"ホワイト・フェミニズム"と言われても仕方がないなあと。勿論、セクハラに問題の大小も人種も関係ないのだが、『ジョーカー』と同じ様に"白人だから"出来たことに変わりないし、"私たちに続け!闘いはまだ続く!"と締め括るには無理がありすぎる。

エイルズが去った後、カイラがジェスの象徴的な写真を取り出すが、ルパート・マードックの演説を聞いて仕舞ってしまう。このシーンにブレまくった映画が象徴される。唯一頑張っていたケイト・マッキノンすら邪魔者にしてしまった瞬間だった。

※青山シアターの最速試写会で観ました。宣伝にならずにごめんなさい。

追記
多分だけど、"トランプ当選させてセクハラまでしてるFOXニュースはクソ"という認識の下で作られているせいで、取り敢えずFOXニュースを叩きたい映画になってしまったのだろうと推測する。言いたいことは分かるが、そういうのは冷静になって叩き潰さないと同類でしょ。予告編でビリー・アイリッシュ使ってるのもダサすぎ。これもヴィラン倒してハッピーエンドというこの映画の問題点を極限まで高めていく。
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