somaddesign

スキャンダルのsomaddesignのレビュー・感想・評価

スキャンダル(2019年製作の映画)
5.0
映画そのものより、見終わって周縁を知るのに熱中しちゃった

:::::::::::

FOXニュースに事前知識がないと辛いかも。
少なくとも、メディア王ルパート・マードック、CEOロジャー・エイルズ、人気司会者ビル・オライリーの名前と影響くらいは知っておいて見たほうがいい。この辺り保守派・共和党・ブッシュjr政権との関係まで描いたドキュメント映画「Outfoxed: Rupert Murdoch's War on Journalism」に詳しいので予習用にオススメです。

原題「Bombshell」は爆弾って意味の他に、魅力的でセクシーな女性の隠語。女性を客体化して消費する文化への爆弾投下の意味合いもあるのに、邦題だとイチ企業の金満デブのスケベ事件に矮小化されちゃった。

フォックスニュースといえば、婆がビビって爺が怒るネタが大好きで、煙のないところに火種を投げ込みボヤを起こして油を投下するスタイル。裏の取れない不確かな情報でも、魔法の言葉「some people say」を連発して乗り切っちゃう。週刊誌の(事情通)と同じ手法をテレビニュースでやっちゃうイメージ。今作だとFOXニュースの是非は置いといて、あくまで権力とセクハラ(ていうかレイプでわ?)に焦点を絞って見えた。ロジャー・エイルズを告発するのが目的じゃなくて、見た人が考えアップデートを促すような物語なんだろう。


ニコール・キッドマン×シャーリーズ・セロン×マーゴット・ロビーら豪華共演なのに、3人が一堂に会するシーンがエレベーターのアレだけ。なんならあのシーンすら合成っぽくて、実際に会って撮影したシーンがなさそう。3人各々が自分たちの信じる道を歩いてて交差するポイントがないのに、同じ目的や怒りのために別々の立場・場所から声を上げるって意味合いではいいのかも。

メーガン・ケリー、グレッチェン・カールソンと違って、マーゴット・ロビー演じたケイラは、当時実際に働いていた人や被害にあった複数の女性たちを合わせた架空の人物。(劇中ハッキリと描写はされないが)性的関係を強要されただけでなく、実際には性行為を撮影した動画を送りつけられ、訴えを取り下げるよう圧力をかけられた話も米TIME誌の調べで明らかになっている。うーん、クソジジイ。

ロジャーの弁護を請け負ったスーザン・エストリッチ弁護士。自身がレイプ被害者で、レイプ被害/セクハラ被害者たちの代弁者として戦う側だったのに、よくこんな弁護を引き受けたもんだ(FOXニュースに出てた縁もあるんだろうけど)。この一件で随分評判を落としたそう。
ロジャー・エイルズはCEOを退任後、トランプ大統領のパーソナルアドバイザーに就任するも、2017年にクモ膜下出血で亡くなる。エンドロールで触れないのは故人への配慮か、個人の問題でも終わった問題でもなく続く問題ってことなんだろか?

「ウインストン・チャーチル」に続いて2度目のアカデミー賞受賞となった辻一弘の手による特殊メイクはやっぱり凄まじく、メイクであることを度々忘れる。特にニコール・キッドマン演じるグレッチェンが仕事を離れ、自宅でプレイベートな時間を過ごしている時のナチュラルメイクがすごい。テレビ用の厚化粧とも違う、自分らしさを取り戻した姿を女性のメイクの違いで補完する感じ。逆にノーメイクのシーンは特殊メイク感がすごくてちょっと引いた。
あとジョン・リスゴーがロジャー・エイルズになっちゃった特殊メイクもすごかった!ジョン・リスゴーの印象が薄い人が見たら、本当にああいう腹回り・顎下に贅肉下がった爺だと思うかも!! ソファに座ると自然と腹と下腹部が相手に向かってしまう姿が不快&滑稽。パラノイアの金満爺を心底憎める醜い姿を作り上げてた。
ラッセル・クロウもロジャー・エイルズをTVドラマシリーズ「The Loudest Voice」で演じているそうで、どうにか日本でも配信して欲しい。


奇しくもハリウッドのセクハラ問題で、me too運動が世界的に広がる契機ともなったハーヴェイ・ワインスタインが有罪判決を受けた日に鑑賞した。何年かしたら彼の悪行も映画になったりするんだろか?

日本でもテレビに限らず、プロデューサーやディレクター、編集長が女性タレントや芸人を飲み会に呼んでタクシーで次の店に移動するはずがホテルに横付けされた話はいくらでも聞く。拒否すると後日不利益を受けた話も耳タコ案件。日本でセクハラの訴えが少なくて、訴えてもメディアで取り扱わないのは、自身が同じようなことしてるからじゃないか……と勘ぐっちゃう。

22本目
somaddesign

somaddesign