ブラックユーモアホフマン

ブルータル・ジャスティスのブラックユーモアホフマンのレビュー・感想・評価

ブルータル・ジャスティス(2018年製作の映画)
4.3
「可能性」について。

主人公のメル・ギブソンはこれから起こることの確率を%で言うのが口癖。(経験値に裏打ちされていそうで後半の連発具合を見るとかなり当てずっぽっぽい。)

この映画では登場人物たちがそれぞれに、これから起こることに対して期待したり予防したりする。正体不明の敵に対してあらゆる可能性を考慮し攻防することもそう。
また様々な人物が「あり得たかもしれない現在」について口にする。ああしてたら、こうしてれば。その結果としての現在。笑う者もいれば泣く者もいる。
一筋縄にはいかない人間社会を憂うような物語だった。

登場人物たちはそれぞれに何かしら事情を抱えていて、暴力警官、チンピラといった表面的なキャラクターで善人か悪人かを判断することができない。人種差別的な考えを持つ人も思わずそう考えてしまう背景があったり、恋人が有色人種だったり、犯罪に手を染める人もそうせざるを得ない事情があったり、いざとなれば人命を優先したり。映画のジャンルは全然違うけどポール・ハギスの『クラッシュ』みたいな話でもあるかもしれない。

その主人公の役にメル・ギブソンをキャスティングしてるのも面白い。メルギブ映画としても一見の価値があると思う。メルギブの映画(出演/監督)もまとめて観たくなった。

そんな話だから、演出は相変わらずドライだけど、脚本は昨日観た『デンジャラス・プリズン』と比べてウェットで人間味がある。

『デンジャラス・プリズン』の感想に、作風が少しずつ似てると感じた若めの作家としてアリ・アスター、デヴィッド・ロバート・ミッチェル、ヨルゴス・ランティモス、デヴィッド・ロウリーの4人の名前を挙げたけど、そこにテイラー・シェリダンも加えておきたい。『ウインド・リバー』や『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』も似たような渇いた暴力とウェットな人間ドラマのハーモニー。

ヴィンス・ヴォーンは『デンジャラス・プリズン』とまた違ったキャラクターで今回は割と普通の人。ウド・キアとドン・ジョンソンも続いての出演。終盤で、あれ?トーマス・クレッチマン?あれやっぱり別人?って悩んだけどやっぱりトーマス・クレッチマンだった。シブいキャスティングだけど結構豪華。

20/11/28 新文芸坐にて再見。

【一番好きなシーン】
途中、唐突に挟まれる銀行に勤める女性の話。急に本筋から離れて新しい登場人物の新しい話を始めるというザラー節。そして、あのエピソードがあるからこそ全体のテーマに強度が増す。面白い。