松井の天井直撃ホームラン

浅田家!の松井の天井直撃ホームランのレビュー・感想・評価

浅田家!(2020年製作の映画)
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☆☆☆★★


監督自らが書き下ろした小説版(寧ろノベライズ版と言うべきか?)は読了済み。

予告編及び小説版を読んだ限りに於いては、かなり軽い感じの家族ドラマだろうか?…と言った印象を受けた。
写真集《浅田家》の存在は知っていて。書店にて実物を1度だけ見た事があり、「ちょっと面白いなあ〜」くらいの印象は持ったのを思い出す。

とは言え。写真家の浅田氏が、それまでどんな人で。且つ、どの様な人生を歩んで来たのか?は全くあずかり知らぬ我が知識。
題材と、この監督の過去の作品を観て感じた傾向から言って、「おそらくはある程度のお涙頂戴的なホームドラマなんだろうなあ〜」…と言った、予想をしながら小説版を読み初めたのが本音。

思った通りに。小説と言うよりは、やはりノベライズ版なのだろうと思いながら読み始める。
細かな描写よりも映像的にも思い浮かびやすい文章で読みやすい。
但し、その分だけ「読み応えとしてはそれ程はないなあ〜」などと思いながら読み進めて行くと、、、

予告編にて、二宮和也が涙を浮かべながらカメラのファインダーを覗く場面が有ったのを思い出し。「あ?この描写なのだろう?」と直ぐに思い当たる。
それまでは軽い描写が多かったのだが。その場面を経ての、震災を通した写真に纏わるエピソード辺りから、段々と重味と共にやるせなく心を抉られる話へとなって行く。

読みながら〝 命の限りを尽くした想い 〟や〝 失われてしまった世界と残された者の無念 〟等が滲み出て来ている様に感じて来た。
それら様々な、辛い経験をしたからこそ。胸の奥底に沈殿し続けた《辛さ》の解放を経て。《魂の浄化》へと至る話の展開は、情緒的に流され過ぎる事にさえならなければ、読みながらある程度の良作になりそうな気はした。

後半に登場する謎の少女のエピソードが、小説版のラストに繋がる伏線も。しっかりとした演出によって回収されたならば、観ている観客側にはしっかりと愛する家族を想う気持ちが必ずや伝わるだろう…と。



ここまではあくまでも小説版を読み終わった時に感じた思い。

以下は映画本編を観ての感想になります。



反復される構図と役者の動き。
画面右から登場する子供時代の若菜=黒木華は、
「東京へ行く!」と言ってやはり画面右から再び登場する。
そして映画のラスト近くに再度画面右から登場し、優柔不断な正志に対して〝 ある賭け 〟に出る。

実は子供の時、父親は防波堤での政志をファインダーに捉え。大人になっても釣りをしながら《自分探し》をしている政志に声をかける。
監督自ら書いた原作だと、この場面が原作のラストシーンへと繋がっているのだが、、、完成した映画本編には何故か挿入されてはいない。
原作を読んだ時に、このラストシーンに感銘を受けただけに、どこか梯子を外された思いが強く。とても残念に思ってしまった。
何故?あの大事な、防波堤で佇む《女子高生》へ向けてカメラのファインダーを覗く場面をカットしたのか…と(´-`)


最初の内は、兄のナラタージュ方式で始まるのに、それは途中から無くなり。最後は(たった一度だけだけれども)政志本人のナラタージュで締められるのも、どこか観ていて中途半端に感じてしまい、何となく釈然としなかった…との思いが強かったのが本音です。
尤も、やはりと言うか。高原家の虹で泣いてしまったのは内緒ではありますが…


2020年10月10日 TOHOシネマズ錦糸町オリナス/スクリーン2