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酔うと化け物になる父がつらいのsomaddesignのレビュー・感想・評価

3.5
親がしんどいタイプの人なら

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原作未読。1話目だけKindle試し読み。
とても良く似た設定の漫画で「愛と呪い」は読んだ。
(「愛と呪い」も半自伝的な漫画でトラウマものの内容とタッチ。救いがなさすぎて読んでてしんどい😩 せめてこの不幸はフィクションであってくれと読んでて願う。うっかり人に薦めるには人間関係にヒビが入るレベルの凄い漫画なのでオススメです)

ハマってる宗教の部分が映画だと架空のソレになっていたけど、原作だとそれなりに分かるように描かれていて、読んでててそーかーと思った。


自分自身「分かっちゃいるけど止められねぇ」サイドの人間で、夜毎行きつけの酒場に吸い込まれるように寄ってしまうので、うかつに酔って帰る父を責められない。
依存症までなると遠因はさておき、本人も被害者の一人とも考えられる。責めるより適切な加療・改善が必要なんだろう。とはいえ迷惑を被る周囲にしてみれば、病気と被害は別物。残った傷に向き合うには赦すのも大事だけど、ちゃんと怒るのも大事かも。


「ゴーストストーリー」みたいな円環構造。親との関わりを通じて自分の人生を振り返る。親の事情と子の傷は別って気持ちで観てたので、親を理解してあげられなかった事で自己嫌悪に陥る主人公に「そんなことないよ」と言ってあげたい。何度となく「家を出ちゃえばいいのに」「追い出すなり、病院行くなりすればいいのに」て外野から見れば思うことも、『家族』の輪に繋がれると難しい。

家族だからこそ異常事態である認識が湧きにくいし、湧いたところで外に助けを求めにくい。本作だと輪をかけて外の住人の無頓着な発言が当人達を苦しめるわけだし。(劇中描かれないものの、カルト宗教団体の人脈もあったハズで、そういう方面の人たちからの中傷もありそう)
安直に「それでも大きな父の愛」とか「父の寂しさに寄り添う娘の愛」みたいな家族愛に着地することなく、つらい過去をちゃんと辛かったと振り返る強さが良かった。


松本穂香の序盤からカレンダーで隠されたメッセージに見入って〜涙ぐむ一連の熱演に始まり、彼女の大熱演が原動力の今作。松岡茉優にとっての「勝手にふるえてろ」のように、松本穂香の代表作となるであろう一作。優れた女優さんの今しか見られない臥薪嘗胆・試行錯誤が見てとれて熱かった。
たぶん片桐監督のお気に入り、渋川清彦のアル中親父がまた素敵。本人だって良くないことと分かっちゃいるけど止められない、よき父親として娘達を守りたいと思いつつも行動が真逆を行ってします。人間のままならなさを体現したような人物像で憎らしくて愛おしい。あの笑顔のダメさっぷりと、全身に愛と悲哀が溢れてる佇まいは他の人では得がたい魅力。キャスティングの勝利だと思う。



片桐監督は前作「ルームロンダリング」しか見たことないけど、日常の小さな波風を切り取るのが上手な印象。何気ない同僚とのランチ風景や、スーパーでの買い物etc..しょうもない日常の場面がスリリングに見える話法が面白い。
漫画原作を意識してるんだろうけど、心象をいちいちフキダシで表現しちゃうの無粋。文字で説明できちゃうなら映画にしてる意味って何。


かなりどうでもいいことに、酔って帰る父がソフトボールの時に被ってる帽子が大昔の日ハムモデルだったのが個人的ツボ。

当事者に感情移入して見てしまう一方、他人目線で冷めた目で見てしまう自分がいた。アルコールの問題があったとはいえ、ちゃんと仕事して養ってくれてるお父さんをそんなに恨むことないじゃない。少なくとも人並みの生活や幸せは体験できてるし、漫画家としてデビューできるなんて得難い成功じゃなかろうか。悪し様に父親を描きすぎだと思ったし、不幸を見せびらかして金に昇華するのは過去の供養の仕方として有りや無しや悩む。


(余談)
どうでもいいけど、安藤玉恵と宇野祥平共演しがち。かつ、共演するとき場末の飲食店で酒を酌み交わしがち。コンビか。


新型コロナの影響で週末にも関わらず劇場ガラガラ。
決して本作への関心が低いせいじゃないハズ。大絶賛には遠いけど見て損する作品じゃなかった。劇場で見る程であったかは疑問。


25本目
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