よーだ育休中

ラストナイト・イン・ソーホーのよーだ育休中のレビュー・感想・評価

4.0
ロンドンの芸術大学に通うため故郷を離れたEllie(Thomasin McKenzie)は、寮に住む同級生たちの都会的なノリに馴染めず、グージプレイスの屋根裏部屋で一人下宿を始める。元々霊感の強い彼女は、転居したその晩に60'sのソーホーで歌手を目指す美しい少女Sandie(Anya Taylor-Joy)の夢を見る。


◆魅力的な若手俳優がダブル主演!

ともに2010年代中旬に銀幕デビューを果たし、着実にキャリアを積み重ねていった実力派の若手俳優Thomasin McKenzieとAnya Taylor-Joyがダブル主演を務めた今作。今作を最後まで鑑賞した後でこんな事を言うのは大変に気が引けてしまうのですか、敢えて言わせていただきたい。二人ともめっちゃ可愛い!!!可愛すぎる!!!やばい!!!

純粋で心優しいコーンウォール地方(英国南端の田舎)出身のEllie。地味で控えめながら行動力のある彼女は、儚げで透明感のある容姿のThomasin McKenzieがピタリと当てはまっていました。

60'sのソーホーで一人奮闘したSandie。見た目に美しく、立ち振る舞いは華やか。勝気で自信に満ちた彼女をAnya Taylor-Joyが好演していました。彼女のキリッと目力のあるキュートな顔立ちが、演じるキャラクターにこれまたベストマッチ。

もちろん二人とも可愛いだけではなくて演技も抜群に良かった。広告で今作を見かけた時から、Anyaのハッとする様なパフォーマンスシーンや、投げキッスのシーンに心を奪われていたので、本編を鑑賞する機会が得られたのは本当に良かった。そしてThomasinもAnyaに負けず劣らず美しく、演技も素晴らしかった。次第に垢抜けていく様子や闇堕ちしていく様子は真に迫るものがありました。


◆洒落乙なホラーサスペンス

現代のロンドンを生きるEllieが霊感少女であるという設定が肝。彼女の特異な能力を通じて、現代と過去を行き来しながら物語が進んでいきます。60'sのソーホーで輝きを放ったSandieの生活を追体験しながら(影響されながら)次第に垢抜けていくEllie。しかし『ロンドンは人を呑み込む街』という祖母の発言が現実のものとなり、Sandieと共にソーホーのネオンライトに潜む闇に呑まれてしまいます。トリコロールのカラーに点滅するネオンライトが、赤い明滅に切り替わった時、恐ろしい亡霊たちが現れる…。

今作を手掛けたのは【ベイビー・ドライバー】のEdger Wright監督。今作でも音楽と映像が綺麗にマッチしていました。その上、アート、ユース、クライム、ロマンス、サスペンス、ホラー、ファンタジーなど、多様なエッセンスを含ませながら丁寧に上質な作品としてまとめ上げる手腕は流石。《どんでん返し》とまではいかないものの、「そうきたか!」と鑑賞者を唸らせるプロットも健在でした。

【ベイビー・ドライバー】がバシッと刺さり、『Edger Wright監督めっちゃいいじゃん!』としっかり心を鷲掴みにされた僕。今作【ラストナイト・イン・ソーホー】も公開当時から(アニャちゃんめっちゃ可愛いし!)ものすっっごく気になっていたものの、「劇場でホラーは…、む、無理。」とチキンスキルが発動してしまい、劇場鑑賞を断念しました。劇場で見れば良かった。ホラーといいつつ、ホラーじゃなかった。ホラー要素はあるにはあるものの、作品全体に占める割合は高くない。ジャンプスケアも無ければ、目を覆う様なヒリヒリする展開も無い。ソーホーが抱える闇を演出する一つのエッセンスというだけで、これはホラー映画では無い!…大変に後悔しております。


◆作品から溢れるメッセージ

【ベイビー・ドライバー】でもそうでしたが、今作もメッセージ性に富んだ作品でした。【ベイビー・ドライバー】では、幼くして両親を亡くした少年が、聾唖のお爺さんに育てられながら、犯罪の世界でいい様に扱われる姿を通して、社会的弱者が抜け出せない裏社会の闇と息苦しい貧困生活が痛烈に描かれていたと記憶しています。

今作においては、女性が食い物にされた(されている)事について、痛烈な批判を感じます。誰の目から見ても美しく、自信に満ちていたはずのSandiが《顔のない男たち(不特定多数の『男性』という概念を象徴している様でした)》に抑圧されて心が砕かれてしまう様子。煌びやかなステージの裏では、少女たちが身も心もすり減らしている現実。今でこそ《MeToo運動》や《反ヒジャブ運動》が声高に叫ばれる様になりましたが、一人の少女の心が殺された(Sandiが死んだ)事には胸が痛みます。冒頭のタクシードライバーの台詞『外見は変わっても中身は昔のまま変わらない』という発言が、切れ味の鋭い皮肉になっていました。この世は不平等だと思いますが、不平等である事と不当に搾取される人間がいる事はイコールではありません。ハラスメントかっこ悪い!

ハラスメントに満ちた環境であっても、『誰かの助けを借りる』事で最悪の事態は避けられる事が謳われています。助けを求められなかったSandiとEllieの母とは違い、Ellieは過去の幻影からも現在の友人関係のしがらみからも見事脱却して見せました。Jhon(Michael Ajao)マジでカッコいい。白人救世主ではないのもよい。


◆格安物件にはワケがある(ネタバレ有)

Ellieの特異能力について明確な説明は無かったですが、冒頭の祖母との会話(『お母さんは現れていないんでしょ?』)や、鏡越しに現れる母が佇む様子から推察するに《鏡に映った故人》は守護霊的なものなんでしょう
か。であるならば、ラストシーンは救いがありました。60'sに死んだSandiと、隠してきた闇を守り切って死んだAlexandra。最後にEllieの下へ現れた姿にホッとする自分がいました。(Diana Riggの遺作となった現実とのリンクもまた、鳥肌でした。)

Ellieの能力は鏡越しに霊を視ることが出来るというものでは無いので、とんでもない事故物件(そこら中に死体が埋まっていて、何体もの地縛霊や強烈な生霊が憑いている部屋)に影響されてしまったのでしょう。そこからズルズル引き込まれて、よくないものを引き寄せてしまった。僕には霊感がからっきしですが(そうであると信じたい)、大家が匂いについてやたらと注意喚起してくる部屋には絶対に立ち入りたく無いです。