Makiko

東京の女性のMakikoのレビュー・感想・評価

東京の女性(1939年製作の映画)
3.7
原節子が出てるフェミニズム系の映画で最後までフェミニズムを貫き通すのって珍しいんじゃないか。
男と肩を並べて女性が働くことの大変さを描きつつ、その中でヒロインが男の先輩の成績を抜くほど成長した後に先輩のプライドが崩壊していく姿や群れて悪口を言うおっさん社員たちを描いていたのが良かった。
そういった男たちを立ててあげたり、三歩下がって大人しく結婚に落ち着くような「正解」の女ではないヒロイン像は時代の先を行き過ぎていたのだろうと思う。ヒロインの本心からの表情を見られるラストが清々しい。

酒乱、DV、商才なしのプー太郎な父親がいてそれをそのまま描くという時点でもう都会派の映画。田舎の保守的な社会によくみられる、今話題の“伝統的家族観“のもとに形成された家族の話には「弱い父親」は出てこない。

若いからというのもあるけれど、原節子の目つきがきつい。当たり前だが小津の頃とはお化粧が違う。どこかでいわゆる戦後のの原節子は「顔の彫りが深すぎて、お化粧で少しでも浅くなるように見せていた」と聞いたが、そういった細工をせず口紅を濃いめに引いて帽子を斜めに被ったりしていると本当に外国人に見える。戦前のモダンな女性を体現するかのような存在感のある身体。ビル街を闊歩するシーンで、ローアングルから見上げるように撮っている場面があるのだけれど、まるで怪獣が歩いているような迫力だった。
妹もモダンなのだけど顔が小さくて華奢なので原節子とはまた別のタイプ。今の基準で見てめっちゃ可愛いし、細長い腕や脚をブンブン振り回して動き回るから見ていて楽しかった。エスパー魔美みたいなパーマも素敵。
姉妹喧嘩が暴力的で好きだった。冒頭の男同士の殴り合い蹴り合いの喧嘩なんかと比べ物にならない原節子の全力のビンタが見もの。

ドライブシーンめっちゃ映像綺麗!あそこだけフィルムの保存状態が異常に良かった。

ゼネラルモーターズのネオンサインが太っちょの顔にスーパーインポーズされる場面のあたりは尖ってたころのドイツ映画みたいでかっこよかった。あと英会話スクールって戦前もあったのね。

一方ではシーンぶつ切りの変な転換も多いし、背景が合成だとすぐわかるような撮り方をしていたりとか、音響が基本的に残念だったりとか技術的な欠陥は多々ありだし、原節子の発声は最悪で腹式呼吸を知らないんだろうなという感じだった。

ただビジュアルに関してはかっこいいの一言。テカテカ生地の黒いレインコートとか洋画のファム・ファタールみたいだったし、ネクタイにジャケット姿は『セント・マーティンの小径』のヴィヴィアン・リーのようで……(あの映画も戦前のロンドンを映した作品で、その何年か後に大空襲でボロボロになるんだよなぁと考えながら見て悲しくなった記憶)。
寝転がったまま妹の帰りを迎えたり、寝転がったまま新聞を読むなど「伝説」になる前の等身大の原節子がいた。


良作&レアなものを観た。
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