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ミッドサマーのEikeのレビュー・感想・評価

ミッドサマー(2019年製作の映画)
3.5
ジェームズ・ワンの登場はあったものの、2000年台以降のアメリカのホラージャンル作品はリメイクやフランチャイズ化が主体でどうも活気が感じられず、多様性を喪失し兼ねないと危惧していたところにロバート・エガースによるWitch、ジョーダン・ピールによるGet Outそして本作のアリ・アスター氏の「ヘレディタリー」といった作品が相次いでメジャーシーンに登場したことでようやく再び活気が出てきた印象を受けました。

そのアスター氏の第2作目が本作。
少し意外だったのは本作もまたおおよその所で「ホラー」の範疇に含めることが出来る内容であったこと。
というのも「ヘレディタリー」は結果としてゴリゴリのオカルト映画だったわけだが全体的には家族間の心理ドラマであり、必ずしもホラーに執着していないような気配も感じとれたため、アスター氏自身はもしかするとホラーに対してこだわりはないのではないかと感じていたためだ。

今回のMidsommer、前半の見かけに関しては「ヘレディタリー」と同様にホラー臭は必ずしも濃くない。
それでいて陽光降り注ぐ北欧の美しい自然の中で徐々に悪夢のような世界が展開されて行くあたり、実に性格の悪さが伺えて実際にはホラー志向が強いのかもしれない(笑)。

設定と人物設定についてはオープニングから仕込みが効いていてヒロインは精神疾患を患う妹の無理心中によって両親を失い精神的に不安定。
そうした状況にあって、以前から関係に軋みが生まれていた恋人クリスチャンと共にスウェーデンの森林地帯で開かれるとあるコミュニティーの「儀式」に参加することに。
90年に一度、白夜が続く夏に行われる儀式には、外部の人間からはうかがい知れぬ掟があって…。

かなり特異な設定の物語ではあるが序盤は、いわゆるホラー映画の匂いを意図的に排除している印象。
その最たる要素が日の光。
本作は北欧の夏至の時期を舞台にしている設定上、多くのホラーのお約束である「暗闇」が出てこないのだ。
明るく降り注ぐ日の光の中で俗世界とは隔絶された集団が形成する異様な集団世界が描かれており、これがなかなかに新鮮な印象。
前作では悪魔崇拝が物語の核心にあったが、今作ではある種のコミューン集団の中に流れる独自のしきたりや価値観がその役割を果たしている。
それは「宗教」というよりはあるカルト集団の常人には理解しがたい「掟・慣習」とも呼びうるもの。
そこで行われる儀式に外部から参加した者たち。
そして彼らを招いたこの集団の「目的」とは…。

中盤までは実に面白い。
主人公の置かれている閉塞状況の救いの無さ、牧歌的で豊かな人間関係を築いているこの集団による祭事が次第に常人には理解しがたい得体のしれないものにシフトしていく薄気味悪さ…。
加えてドラマ部分でも工夫が見られ、物語が間延びした雰囲気にならないようにしているあたりも好印象。
ヒロイン、ダニとクリスチャンの間の距離感が広がっていく辺りや、この集団による祭事をネタにして論文をものにしようとするクリスチャンと友人であるジョシュの間に生まれる軋轢と不信感などもスパイスとして機能している。

その反面、後半からエンディングにかけては少々物足りない気もしました。
ダニ達が外部から呼び込まれた理由が明かされて以降は、見る側からすればもうすこしドラマチックな描写が欲しかったというのが本音。
もう少し下世話で悲惨な(笑)描写があってくれるとラストのダニの変容がより面白くなった気がするのだ。
悲惨な事件で血縁を失って天涯孤独の身となったダニが最終的にどういう道を選択するのか、寓話めいた展開にインパクトを持たせるためにもう少しパンチが欲しかったかも。

アスター監督、新作はやはりA24スタジオ発の"Disappointment Blvd.”「失意の大通り」ってところでしょうか。
「ジョーカー」のホアキン・フェニックスを主演に迎えた「ホラー・コメディ」とのこと。撮影は完了している模様でクリスマスシーズン公開予定でしょうかね。
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