SANKOU

君の誕生日のSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

君の誕生日(2018年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

2014年に起こったセウォル号の沈没事故の衝撃は今でもよく覚えている。
船長はじめ、船舶会社や海上警備隊、そして政府の対応の悪さが、多くの国民の感情を逆撫でしてしまったことも連日報道されていた。
この作品はあくまでも事故の背景にではなく、遺族の喪失感と再生にフォーカスを当てている。
事故により息子のスホを失った母親のスンナム。
彼女の時は事故が起こった直後から止まったままだ。
彼女は遺族同士の集まりにも顔を出さず、支援者が提案するスホの誕生日会の開催も拒否している。
彼女がどうしても息子の死と向き合えない原因は何だろうかと色々と考えさせられる。
彼女は事故が起きた直後に、何度もスホが電話をかけてきていたのに気づくことが出来なかった。
それが大きな後悔となって、彼女の心を閉ざしてしまっているのは間違いない。
彼女はスホの死を受け入れられず、まだ幼い娘のイェソルにも冷たい態度を取ってしまう。
彼女は部屋の電球のひとつが消えたままなのに、それを換えようとしない。
その電球は突然思い出したかのように点灯することがあるのだが、彼女はそれを息子からの報せだと信じている。
一方、スホの父親であるジョンイルもまた、大きな喪失感と罪悪感を抱えていた。
彼は外国に出張に出ており、具体的な罪状は明かされなかったが、その地で刑務所に入れられていたために、事故の直後に家族の側にいることが出来なかった。
家族とやり直したいと願うジョンイルだが、スンナムは彼を冷たく突き放す。
彼は何とかして失った時間の埋め合わせをしたいと考えている。
彼が結局一度も出国のスタンプを押されることのなかったスホのパスポートを持って、空港の職員にスタンプを押してくれるように懇願する姿は痛々しい。
彼は支援者が提案するスホの誕生日会には賛成している。
彼が少しずつ家族の間に出来てしまった溝を埋めていくに従って、頑なだったスンナムの心も開かれていく。
改めて韓国人は日本人よりも感情の発散が大きいのだと思った。
事故の後もずっと教室をそのままにしているだけではなく、故人を忘れないために遺族同士で集まって思い出話にに浸るという光景は日本ではあまり見られないのではないか。
スンナムは「まるで遠足気分ですね。」と会合に集まる遺族に思わず感情をぶつけてしまうのだが、この思い切って中に溜めている感情を外に出すこと、その感情を他の人々と共有することが実は前に進むための大きな原動力になるのではないかと思った。
最後はスホの誕生日会で、彼への想いを共有することでスンナムもジョンイルも心が救われる。
派手な演出はないが、だからこそ演じる俳優の生の感情がリアルに画面を通して伝わってきた。
やはり韓国の俳優の演技レベルはとんでもなく高い。
スンナム役のチョ・ドヨンは、『シークレットサンシャイン』の時もそうだったが、病的なまでに喪失感に囚われた人物を演じるととても迫力がある。
言うまでもなくジョンイル役のソル・ギョングは本当に素晴らしい。
世界でも彼はトップクラスの名優だと思っている。
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