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二人小町のnt708のネタバレレビュー・内容・結末

二人小町(2020年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

ジャンルで括れないカオスの世界観、完璧なふりをしていて実は穴だらけの物語。本作はそんな芥川の作品、あるいは彼自身の思想を映像として上手くまとめ上げているのではないだろうか。カメラワークや編集こそ平凡ではあるが、そう言った平凡な映像がColour Gradingや音響によって映画として成立するクオリティまで押し上げられていた。

元来、私は芥川の作品が大嫌いである、、と同時に大好きでもある。人間として良いところも、悪いところもダダ漏れなところに嫌悪感を抱く一方で、それはある意味自分にはできないことを彼がやってのけていることへの嫉妬心によるものかもしれないからだ。だからこそ、好きだろうが嫌いだろうが、私は芥川から目が目が離せないのかもしれない。

芥川の象徴と言えば、彼の生に対する執着。本作でもそうだが、彼は主要な登場人物を自滅へと追い込む。自らの身を自らの手で滅ぼそうとしたのは彼自身も同じであり、そのモチーフは生への絶望と死への憧れだろう。しかし、これらのモチーフは並々ならず生きることに期待していた裏返しでもある。生への期待が裏切られたとき、深く絶望し、と同時に死ぬことで生きることで得られなかった何かを得たいと思ったのではないだろうか。

女性に対する視線、あるいは視点がとことんだらしが無いのも芥川の象徴だろう。美しい女性を地獄へと追い込むのは、恐らく死への憧れゆえに、美しきものが死ぬ瞬間こそこの世で最も美しいと考えている(これは、この時代を生きた男性作家の美に対する考え方の傾向である)からであり、死ぬことで2人の愛が永遠のものになるというロマンチズムもまた彼にそのような考えを起こさせたのかもしれない。

こうして芥川に対する自分の考えをまとめてみると、やはり芥川は大嫌いであると同時に大好きな存在、つまり見逃せない存在であることに気付かされる。じゃあ、本作はどうかと言われれば、芥川の戯曲が原作なのだから、好きと言われれば好きだし、嫌いと言われれば嫌いである。この前提を抜きにしたレビューはやはりナンセンスだ。

ナンセンスと言えば、本作における死神の存在は実のところなんだったのか。あれがもし自分のことを死神と思っている男(芥川?)の話だとしたら、本作の演出を大幅に変わり、物語の仕上がりもサイコホラーに近いものとなったのではないだろうか。個人的にはそういう解釈もありだと思うのだが、他の方がどう思うかはわからない。
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